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~ワクチン供給で発生した課題が、私たちに与える示唆とは?~[2021.12.16]
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コラム|『ワクチン供給』に学ぶ需給管理のポイント
~ワクチン供給で発生した課題が、私たちに与える示唆とは?~[2021.12.16]

『ワクチン供給』に学ぶ需給管理のポイント

昨今、経済・社会環境は急激に変化し続けています。それによっておこる社会課題やトレンドに対し、需要予測・需給計画は柔軟に対応していく必要があります。

そこで本コラムでは、需要予測・需給業務の担当者や最新のトレンドを学びたい方向けに、今後必要とされる需要予測・需給計画の取り組みやポイントについて、弊社コンサルタント独自の視点で解説します。

『ワクチン供給』に学ぶ需給管理のポイント

この原稿を書いている時点で新型コロナワクチンの2回接種率は7割を超えましたが、接種開始当初はワクチン供給を巡って様々な混乱が報道されました。その対応の是非はさておき、ワクチン供給における課題は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

ワクチン供給で発生した問題を企業における製品・商品の需給業務の問題におきかえて考えることで、需給管理のポイントを整理してみたいと思います。

正しい需給状況が把握できない

最も大きな問題は、各自治体の正しい需給状況が把握できないことでした。その主な原因は2つありました。

1つは接種実績がタイムリーに入力されないということです。タブレット端末で番号を読み取るのにコツがいるなど入力に手間がかかるため、数日後にまとめて入力するというようなケースがあったようです。企業においても入庫実績や出荷実績がタイムリーに入力されないと正しい在庫を把握することができません。

もう1つは、接種した場所と被接種者の居住地が異なるケースがあったことです。例えばA市に住んでいる会社員がB市にある勤務先近くのクリニックで接種すると、A市の実績として記録されますが、実際にはB市のワクチンが消費されていることになります。国は『B市はまだまだ在庫があるはずだ』と考えますが、実際には在庫はほとんどないというような状況が発生しました。
企業の需給においても同様のケースがあります。本来A拠点から出荷すべき受注があったときに、A拠点に在庫がなくB拠点から出荷されるといったケースです。
この場合、B拠点から出荷されたことはわかっているので在庫は正しく把握できるのですが、B拠点の需要として将来の需要予測に使用すると誤った結果を招く可能性があります。

このように、適切な需給計画を立案するためには、まず需給状況を正しく把握することが最も重要なポイントとなります。
需給活動の意思決定は、すべて需給状況に基づいて行われるからです。

地域によって需給状況が異なる

ワクチン供給数は基本的に各自治体の人口比で配分されていましたが、実際の需要数(接種回数)には偏りがあり、在庫が不足している自治体と余っている自治体が発生しました。一度配布してしまったものを再配分することはオペレーションが複雑になりますし、余分なコストも発生します。
前に述べたように在庫数自体が正確ではないためそもそも適切な調整自体も困難だったと考えられます。

複数の在庫拠点を持つ企業においては、在庫の偏在を抑制することが需給管理の重要なポイントとなります。そのためには精度の高い需要計画を立案すること、需給状況に応じて適切に配分することが求められます。さらに、極力上流の拠点で在庫を保持することも大切です。
下流の拠点で余分な在庫が発生すると他拠点への転送が必要となり、通常の物流ルートとは異なるルートでの輸送によって余分な物流コストがかかったり、出荷期限がある食品などの場合には製造日の逆転が発生しやすくなるなど様々な問題が発生するからです。また、万一偏在が発生した場合にすぐに気付ける仕組みを構築することも忘れてはいけません。

需要予測の不確実性が高い

需要の不確実性もワクチン供給を困難にした一因でした。どの程度の人がどのタイミングで接種しようとするのか、過去の経験がないため予測するのは非常に難しかったと思います。さらに、予約を受け付けたのに接種できないという状況を避けるために需要を多めに見積もったことが、混乱に拍車をかけました。職域接種で一気に供給不足(が予想される状況)になったのは、この点が大きかったと思います。

企業の需給で考えてみると新製品の需給がこの状況によく似ています。過去の実績がないためモデルによる予測が非常に難しく、営業部門の販売計画に頼るケースが多いのですが、営業部門は欠品を避けたいがために多めの販売計画になりがちです。
高精度の販売計画はあまり期待できませんので、予測が外れたときにいかに素早く供給のアクセルとブレーキを切り替えられるかがポイントになります。

供給の不確実性が高い

需要だけでなく供給の不確実性も大きな課題の1つでした。「いつごろどれくらいの数のワクチンが供給されるのかがなかなか公表されない」「公表されても本当に信じていいのか」と疑心暗鬼になっている自治体もあったように思います。供給の不確実性は供給を受ける側の不安をあおり、過剰な供給要求につながります。1973年のオイルショック時におけるトイレットペーパー騒動は、その典型例です(私が子供のころの出来事ですので、読者の多くにとっては歴史上の出来事かも知れませんが)。

企業における需給においても同様のことが起こりえます。製品が品薄状態になったときには、各在庫拠点(あるいは各支店)が、実際に必要な量よりも多めの供給要求をする傾向があります。そもそも品薄なので要求通りには供給されないのですが、要求量の比率に応じて配分されるなどのルールがあったりするからです。需給担当者は、各拠点(支店)の需給情報(在庫、需要計画)を把握して、要求量によらず適正に配分することが求められます。
また、次の生産日・生産数の情報を事前かつ正確に提供することによって、過度な要求が発生しないようにすることも大切です。

企業内にとどまらず顧客やサプライヤと正確な需給情報を共有することは、ブルウィップ効果(サプライチェーンにおける川上事業者になればなるほど、末端の需要動向の変化が増幅されて伝わること)を抑制する意味でも、重要なポイントの1つです。

予実乖離

今回は、ワクチン供給を題材に需給管理のポイントを考えてみました。需要と供給があればそこには必ず需給管理が必要となります。
身の回りの様々な需給管理に目を向けてみましょう。その需給がうまくいっている(あるいはうまくいっていない)理由を考えてみることは、きっと貴社の需給業務改善のヒントになると思います。

筆者紹介

淺田 克暢

淺田 克暢(あさだ かつのぶ)

デジタルイノベーション事業部門 数理技術コンサルティング部 コンサルティングプロフェッショナル。

「需給マネジメント」の普及を目指し、20年以上に渡って需給計画システムの導入コンサルティング業務に従事。中小企業診断士、流通科学大学非常勤講師(2003~2006年)、現在は東京理科大学のSCM関連の講義を担当。著書に『在庫管理のための需要予測入門』(共著、東洋経済新報社)、『なぜあなたの会社はITで儲からないのか』(共著、同友館)。

関連書籍など

在庫管理のための需要予測入門

FOREMAST担当コンサルタントが執筆した需要予測入門書です。
どのような需要予測システムを導入すればよいかお悩みの方のために、実務に精通したコンサルタントが基本知識からシステム導入時に考慮すべきポイントまでをやさしく解説しています。

在庫管理のための需要予測入門

キヤノンシステムソリューションズ株式会社数理技術部[編]
淺田 克暢+岩崎 哲也+青山 行宏[著]
■出版社:東洋経済新報社
■発売日:2004年12月22日
■ISBN:4492531874
■価格(税込):1,980円

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