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コラム|AIプロジェクトの始め方[2023.8.4]
昨今、様々なAIツール が登場していますが、いずれのツールも基礎的なAI知識がない方でも使いこなせる魔法のツールのようなレベルには未だ至っていないようです。たとえば、最近流行のChatGPTも、プロンプトの書き方を覚え、正しい質問の手順を踏まないと、質問者が望む回答を得ることはできません。
また、ビジネスにおいてAIツールを活用するためには、上記のような技術的な要素に加えて、AIを導入するために推進するAIプロジェクトの進め方に配慮する必要があります。AIプロジェクトの典型的な障壁には以下のような3つがあります。
- 技術習得が難しい
- 実ビジネスと結びつけることが難しい
- プロジェクト推進の方法がわからない
これら3つの障壁に対して、気を付けるべきポイントはそれぞれ異なります。本コラムでは、これからAIをビジネスに活用しようと検討中の方や、取り組んではみたものの上手く推進できなかった方に向けて、3つめの障壁である“プロジェクト推進の方法がわからない場合”に「気を付けるべきポイント」をデータサイエンティストである私自身の失敗エピソードも交えながらご紹介します。
目次
- 1.プロジェクトのプランニング
- 2.プランニングに必要な2ステップ
- 3.ハード・ソフト面の整備
- 4.ステージ別_展開例のご紹介
1.プロジェクトのプランニング
はじめに、AIプロジェクトの特徴について確認していきましょう。
従来のウォーターフォール型のシステム開発プロジェクトの場合、ゴールまでの制約事項やマイルストーンなどがプロジェクト開始前にRFP(提案依頼書)などで明確になっているケースが多いと思います。また、トラブルや要件の変更が発生した場合に備えて、予めその対応方法も決められているケースが一般的です。
一方、AIプロジェクトは、以下のような特徴をもつ傾向があります。
【特徴①】ゴール設定が不明瞭
【特徴②】データが不十分
【特徴③】マイルストーンが担当者の知識に左右される
このように、非常に曖昧な状態でプロジェクトが始動してしまうと、意思決定者の鶴の一声で、プロジェクトの方針変更や既に合意形成していたはずのゴールが別のゴールに変わってしまうこともあります。
上手くいかないAIプロジェクトでは、【現状把握】と【ゴール設定に関する合意形成】が成されていないケースが多々見られます。
そうした状況に陥らないために、AIプロジェクトを進める上でのプランニングのステップについてご紹介します。
2.プロジェクトプランニングのための2ステップ
ステップ① 現状把握
AIプロジェクトの場合、新たな領域に踏み出すケースが多いため、ベンチマーク(基準)としての現在のやり方やその結果をきちんと数値や文章で正確に定義し、予め把握する必要があります。
現場の技術者の方の経験や勘を頼りにビジネスを進めている場合も多いかと思いますが、そういった数値化されていない領域を定量的に情報整理することからスタートしなければなりません。
たとえば、数十万人の会員がいるECサイトがあるとします。AIで解決したい課題を「高額商品を購入してくれる可能性の高い会員に対してメルマガを送り、購入数を伸ばすこと。ただし、メルマガ解約者数は最低限に抑える。」と設定したと想定します。この場合、まずは現状把握をするために、過去の全会員の購入履歴、過去のメルマガ送付数や種別、それぞれのメルマガに対する解約者数などのデータをそろえる必要があります。
AIプロジェクトでは、正解データとその他数十万人の購買データ、送付規模に応じた解約者数やメルマガの種別ごとの解約者数などを現状の値(基準)として設定することがスタートとなります。これによりAIが出す結果と現状とを比較し、現状と同等の成果が出たのか、それとも現状よりも劣っていたのか、などをチェックすることが可能となります。
ステップ② ゴール設定と合意形成
AIプロジェクトの難しい点として、ビジネス部門の方がAI技術に詳しくないことが挙げられます。そのため、AIで試行した結果をどう読み解くのか、どう理解すればよいのかという技術的な観点を、プロジェクト開始前に伝えておく必要があります。しかしながら、理解の程度の差や認識のギャップを埋めることは容易ではなく、ビジネス部門の方も含めた全ての利害関係者がAI技術を適切に【理解した上での合意形成】を前もって実施することは難しいのが実情です。
そのため、初期の段階からさまざまなケースを想定して、判断基準を仮置きし、その結果を導き出す仮説やその理由を、利害関係者に数値や文章で説明し、合意形成をしておくことが重要です。
上記ECサイトのプロジェクトの場合、結果的には担当者の経験則に基づくメルマガ送付よりも、AIが導き出したメルマガ送付の方が、より購入者を伸ばすことが出来ました。ところが、プロジェクトに対する最終評価としては、AIに予測させるための事前作業量(準備)が大変なため『実ビジネスへの適用は出来ない』という判断が下されました。
事前に合意形成していたはずの“購入数増加とメルマガ配信停止の抑制”という課題ではなく、“現状のやり方よりも効率的に購入者を見つけたい”という本質的な課題があったことを発見できていなかったために、上記のような結果となってしまいました。
これからプロジェクトを開始される方は、ぜひ上記の2ステップ【現状把握】と【ゴール設定に関する合意形成】を踏まえたプロジェクトのプランニングを実践していただくことをおすすめします。
3.ハード・ソフト面の整備について
次に、ハード・ソフト面の整備について解説します。
AIプロジェクトを進める上で、事前に整備しないといけない機能群を整理したものが下表です。AIプロジェクトを開始する前に、ハード面で必要十分な環境が整っているか、今一度ご確認ください。AIは、過去からパターンを学び未来を予測する手法であるため、学習データが十分にあるか、その品質(欠損、異常値がないこと)は担保されているか、AIプロジェクトを終えた後に十分な検証データが確保できるか、などの観点でデータを準備しておく必要があります。
この表は、あくまで一例ではありますが、最低限必要な機能は網羅しています。プロジェクトの規模や内容に応じて必要な機能を洗い出す際に、参考にしてください。
また、ソフト面の整備として、人材の育成が挙げられます。AI プロジェクトの推進に必要な人材スキルはビジネス・データサイエンス・データエンジニアリングの3つが挙げられます。ここでは詳細は語りませんが、データサイエンススキルはビジネス部門のメンバーを育成いただくことをお勧めします。以下は、人材育成計画のイメージです。
目指すゴールは、メンバー自身がAIプロジェクトを自走させながら、ツール活用とデータ分析の文化を定着させることです。
AIプロジェクトを進める中で、意思決定者にAIツールに対する認識差異がある場合は、AI技術や解釈の方法についての学習会が必要になることもあります。
4.ステージ別_展開例
続いて、AI導入・推進のステージを把握する方法についてご紹介します。
まず皆様には、以下の図でご自身が今、どのステージに立っているのか、確認していただきたいです。
そして、次に進みたい方向性を確認してください。
新たな自部門のテーマに挑戦したいのか、他部署の業務課題を解決したいのか、あるいは、新たに組織やチームを作り、社内のAIテーマを見つけて解決したいのか。お客様の社内事情により、進むべき方向はさまざまです。
なお、現行の業務を抱えながらAIプロジェクトへ取り組むのは非常にハードルが高いため、AIテーマ専任の推進部門を編成することが理想的です。そのためには経営層の協力を取り付けることも必要不可欠でしょう。
自社のAI活用ミッションが個人や組織を超え、企業としてのありかた、最終的には社会貢献するためのビジネスミッションまで含めて考察が必要なケースもあります。
以下の展開例図は一例となりますが、進むべき方向性が定まったら、達成するためのタスクや方法論も検討できるようになります。
最後に
AIプロジェクトをこれから開始される方や、既にご経験の皆様は、AIツールによるビジネス課題解決にあたって、日々さまざまな問題に直面していることでしょう。
そうした場合には、初期計画に軸足を置きながら、軌道修正した遍歴を確かめてみて下さい。そして、再計画の重要性も考慮しつつ、複数あるプロセスの中から最適なものを選択するための基準を確認し、利害関係者との合意形成を繰り返しながら、プロジェクトを軌道修正し、AIプロジェクトを推進していただければと思います。
筆者紹介
中田 俊太朗(なかた しゅんたろう)
キヤノンITソリューションズ株式会社 デジタルビジネス統括本部
デジタルビジネス開発本部 デジタルビジネス推進部
2018年までデータアナリティクスを担当し、ECサイトやWEBマーケティングの分析によるサイト評価や施策評価を行い、サイト改善活動を推進していた。近年は製造業やファシリティマネジメント業のお客様を担当し、業務課題を解決するAIサクセスマネージャーとして活動。
保有資格 JDLA Deep Learning for GENERAL 2020#3など
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