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よくわかる、使える会計知識~流通業大手の成長投資力とEBITDAの関係~新しい本社機能に生まれ変わるためステップアップロードマップ


目次

株式会社セブン&アイ・ホールディングスの成長投資志向に注目が集まる

株式会社セブン&アイ・ホールディングスが、これまでの「守り」の財務姿勢から、攻めの「成長投資」へと大きく舵を切ろうとしています。2025年12月2日の日本経済新聞朝刊19面の記事によると、丸山好道CFO(最高財務責任者)への取材を通じて、同社が掲げる2031年2月期までの成長戦略において、当初想定を上回る「兆円単位」の投資余力が存在するという強気の見通しです。
今回は、同社が成長投資の判断基準として重視する「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」と「有利子負債比率」の関係性に焦点を当て、その戦略の背景を詳説します。

財務健全性と成長投資の両立:EBITDA倍率という指標

株式会社セブン&アイ・ホールディングスが投資戦略を語る上で欠かせないのが、EBITDA(イービットディーエー営業利益に一定の調整をしたもの。後述)に対する有利子負債の比率です。

同社は2024年3月に総額2兆円規模という巨額の自社株買いを発表しましたが、これが引き金となり、大手格付け機関(S&Pやムーディーズ)による格付けが引き下げられるという事態を招きました。
この財務体質の悪化懸念に対し、同社は明確な「規律」を示すことで市場の信頼回復を狙っています。丸山CFOは、2031年2月期時点でこの比率を「0.6倍」まで下げるという非常に保守的な目標を掲げました。これは、キャッシュを生み出す力(EBITDA)に対して借入金を極めて低水準に抑えることを意味します。
しかし、この「0.6倍」という数字は、あくまで追加の戦略的投資を行わない場合の「最低ライン」に過ぎません。同社が適切と考える有利子負債比率の基準は「2.5倍」であり、ここに大きな「投資ののびしろ」が隠されています。

「兆円単位」の投資余力が生まれる構造

2031年2月期の目標EBITDAは約1.3兆円に設定されています。仮に、財務健全性を維持できる適正水準である「有利子負債倍率2.5倍」までレバレッジを許容するとすれば、計算上、当初計画していた3.2兆円の成長投資枠に加え、さらに「兆円単位」の追加資金をM&Aや事業拡大に投じることが可能になります。

  • 株式会社セブン&アイ・ホールディングスの連結業績と財務指標の推移
年度(2月期) 営業収益
(兆円)
純利益
(億円)
有利子負債倍率
(対EBITDA)
備考
2022年2月 8.7 2,100 約3.9倍 21年にSpeedwayを買収
2023年2月 11.8 2,800 約3.0倍 収益規模が大きく拡大
2024年2月 11.5 2,200 約2.6倍 財務体質の改善が進む
2025年2月(予) 12 1,600 約2.3倍(予想) 国内コンビニ苦戦で下方修正
2031年2月(目標) - - 0.6倍~(新聞記事より) 1.3兆円のEBITDA目標

投資の矛先:北米の再編とグローバル展開

創出された膨大な資金は、どこへ向かうのでしょうか。新聞記事などを見ていると、丸山CFOは主に以下の3点を重点領域として挙げているように思われます。

  • 北米M&Aの加速

    現在、北米のコンビニ市場は依然として寡占化が進んでおらず、集約の余地が多分に残されています。主力の北米事業においてシェアをさらに拡大することが最優先課題です。

  • 未開拓エリアへの進出

    現在、同社が展開しているのは世界19の国・地域に留まります。欧州やアジアなど、まだ「セブン-イレブン」のドミナントが形成されていない地域に対し、資本業務提携などの手法を用いて迅速に出店を進める構えです。

  • バリューチェーンの改革

    国内事業においては、商品納入頻度の見直しや原材料調達の一元化など、コスト構造そのものにメスを入れることで「稼ぐ力」を底上げし、さらなる投資原資を生み出すサイクルを目指しています。

北米子会社のIPOと市場の視線

この成長シナリオを完遂するための大きな鍵となるのが、北米子会社の新規株式公開(IPO)です。
市場では、北米子会社が上場することで投資家が親会社から離れてしまうのではないかという懸念や、上場の実効性を疑問視する声もあります 。しかし、会社側の見解は異なります。北米事業の価値を市場で顕在化させることで、過小評価されているグループ全体の価値(コーポレートバリュー)を向上させ、上場によって得られる資金を「時間を買う」ための投資や株主還元に充てるという戦略です。
上場時期については、北米子会社の収益回復状況を見極める必要があり、最短でも2026年9月ごろになるとの見通しが示されています。

実行力が問われる「第二の創業」

カナダのACT社による買収提案という荒波を経て、株式会社セブン&アイ・ホールディングスは「コンビニ事業への集中」という構造改革を加速させました。投資家からは「方針は理解したが、あとは結果を見せてほしい」という、シビアな実行力を問う声が相次いでいます。
同社が掲げる2029年2月期の1株当たり利益(EPS)148円という目標が達成されれば、株価は3,000円の大台も見えてくると丸山CFOは試算します。EBITDAという「稼ぐ力」を最大化し、それをいかに効率よく成長投資へ振り向けられるか。
「兆円単位」の投資余力を背景にした同社の反転攻勢は、まさにこれからが正念場といえるでしょう。

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EBTIDAの意味と、有利子負債を加味した投資余力の分析評価

EBITDA(イービットディーエー)の本質とその活用法

  • (1)
    EBITDAとは何か:その正体と重要性

    EBITDAは、日本語で「利払い前・税引き前・減価償却前利益」と訳されます。簡単に言えば、企業の「国ごとのルールの違い」や「過去の設備投資の規模」に左右されず、現在の本業がどれだけのキャッシュを生み出しているかを測るための指標です。
    会計上の「利益」は、支払う利息の多寡や法人税率、さらには建物や機械の減価償却方法によって大きく変動します。しかし、これらは純粋な「稼ぐ力」とは別の要因です。EBITDAはこれらをあえて「足し戻す」ことで、企業の裸の実力(収益力)を浮き彫りにします。

  • (2)
    EBITDAの主な計算方法

    実務上、最も一般的に用いられるのは「営業利益」に「減価償却費」を加算する方法です。

    • 計算式:EBITDA=営業利益+減価償却費

    例えば、以下のようなA社とB社を比較してみましょう。

    • A社:営業利益が2,000万円、減価償却費が1,000万円
    • B社:営業利益が1,000万円、減価償却費が2,000万円(過去に多額の設備投資をした)

    営業利益だけを見ればA社の方が優れているように見えますが、EBITDAは両社とも3,000万円となり、キャッシュを生み出す力自体は同等であることがわかります。

  • (3)
    なぜEBITDAが重視されるのか(メリット)

    最大の利点は「グローバルな比較可能性」と「キャッシュフローの把握」です。

    • 国際比較:国によって法人税率は異なり、借入金の利息(金利)もバラバラです。これらを差し引く前の数字で比べることで、日本企業と米国企業のような異国間の企業財務を同じ土俵で評価できます。
    • 投資の公平性:減価償却の方法(定額法か定率法か)による利益の歪みを排除できます。減価償却方法が異なると、場合によっては2倍近い減価償却費の違いになる事もありえるため、これにより、設備投資が先行する製造業やスタートアップ企業の評価に適しています。
  • (4)
    運用の際の注意点(デメリット)

    非常に便利な指標ですが、どんな方法であれ、必ずしも万能ではありません。

    • 設備投資のコストを無視:減価償却費を足し戻すということは、過去や将来の「設備更新コスト」を無視していることにもなります。設備が老朽化し、近々多額の更新費用が必要な企業でも、EBITDA上は良好に見えてしまうリスクがあります。
    • 負債の影響が見えにくい:利息を考慮しないため、借金まみれで経営が苦しい企業でも、本業の稼ぎが一定あれば数値が良く出てしまいます。
  • (5)
    活用シーン

    EBITDAは、M&Aにおける企業価値評価や、株式投資において「その企業が借金を何年で返せるか(債務償還年数)」を測る際によく使われます。
    単体で見るのではなく、営業利益や純利益とセットで確認することで、「帳簿上の数字」と「実際の現金に近い数字」のギャップを正しく把握することができます。特にグローバル展開する企業や、インフラ・製造業などの設備投資型ビジネスを分析する際には、欠かせない指標と言えるでしょう。

  • (6)
    EBITDAとEBITの違い:使い分けのポイント

    EBITDAと似た指標に「EBIT(利払い前・税引き前利益)」があります。両者の最大の違いは、一言で言えば「減価償却費を費用として差し引くか、足し戻すか」という点に集約されます。

    • EBITの計算式:EBIT=税引前当期純利益+支払利息
      (または、営業利益に営業外収益・費用を調整したもの)

    EBITは、支払利息や税金の影響を排除している点ではEBITDAと同じですが、減価償却費は「費用」として差し引いた後の数字です。

  • (7)
    どちらを重視すべきか?

    使い分けの鍵は、分析したい企業の「業種」にあります。

    • EBITDAが適しているケース:

      工場や機械などの大型設備を抱える「製造業」や、莫大なインフラ投資が必要な「通信業」などです。これらの業種は減価償却費が大きいため、EBITDAを使うことで、過去の投資判断に左右されない「現在の純粋な稼ぐ力」を比較しやすくなります。

    • EBITが適しているケース:

      設備投資があまり必要ない「ITサービス業」や「コンサルティング業」などです。これらの業種では減価償却の影響が軽微なため、EBITを見ることで、より最終的な利益に近い形での収益性を把握できます。

    EBITDAは「現金の動き(キャッシュフロー)」を重視し、EBITは「設備の摩耗(会計上の費用)」を含めた収益性を重視します。企業のビジネスモデルに合わせて、これらの指標を適切に使い分けることが、精度の高い財務分析への第一歩となります。

  • (8)
    EBITDA有利子負債倍率とは何か

    EBITDA有利子負債倍率は、「今の稼ぎで借金を返すのに何年かかるか」を示す指標です。

    ここで、有利子負債とは、銀行からの借入金や社債など、利息を付けて返済する必要がある債務の総称です。

    なお、「リース債務」も実態として設備を分割払いで購入しているのと同様の性質を持つため、通常は有利子負債に含めて計算します。利息が発生しない買掛金などとは区別され、企業の財務健全性を測る重要な指標となります。

    このEBITDA有利子負債倍率という指標を理解するために3つのステップとしてまとめました。

    • 意味:企業の「借金(有利子負債)」を「1年間の本業の稼ぎ(EBITDA)」で割ったものです。
    • 計算のイメージ:例えば、借金(有利子負債)が2,000万円あり、1年間の稼ぎ(EBITDA)が400万円なら、倍率は5倍となります。これは「今のペースで稼げば5年で借金を完済できる」という意味です。
    • 見方:倍率が低い(短い):借金を返す力が強く、財務が健全。

      倍率が高い(長い):稼ぎに対して借金が多すぎて、返済が苦しい可能性が高い。

評価 倍率の目安(年数) 状態の解説
超健全(目標値) 3倍以下 非常にキャッシュ創出力が高く、無借金に近い状態。
健全(優良水準) 5倍以下 財務が極めて安定しており、銀行からの格付けも高くなりやすい。
正常範囲 7倍~10倍程度 一般的な日本の中堅・大企業。返済能力に大きな問題はない。
警戒・危険 15倍以上 稼ぎに対して借金が過大。金利上昇や景気後退に非常に弱い。

この点、今回の時事ニュースのテーマとなっている株式会社セブン&アイ・ホールディングスのケースにおいては、2022年3月期時点で3.9倍と4倍近くあったので、上の表でいう「健全(有料水準)」であったと考えることができ、さらに時が進んで最近では2.6倍など3倍を大きく下回っているため、すでにかなり健全性が高い分類として考えることもできますね。

ご自身の会社や、あるいは取引先の会社の決算書が見られるのであれば、その会社の財務健全性を測る指標として活用することや、株式投資の判断材料として、その会社の講評データをもとに推計してみることにも有効な分析手段となりえます。

近年、円安トレンドとも相まって、海外への投資意欲も盛んになっていることから、国際間の財務比較が可能となる本指標も大いに活用していきたいところです。

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著者プロフィール

柴山政行(しばやま まさゆき)
公認会計士・税理士
柴山会計ラーニング株式会社代表 公認会計士税理士事務所所長
公認会計士・税理士としての業務のほか、経営者や税理士向けにコンサルティング指導、メルマガ・インターネットを中心とした簿記・会計教材の製作、会計関連の講演やセミナーなど、多岐にわたって精力的に行っている。また、小中学生から始められる簿記・会計教育「キッズ★BOKI」のメソッドを開発し、その普及に力を注いでいる。