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人手不足時代のATM運用を救う。暗黙知を数理技術で解き明かした「共同装填」共創の舞台裏Butterfly Effect Archives 共想共創の歩み

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公開日:2026年10月29日

(左から順に、キヤノンITソリューションズ株式会社 中尾 芳隆、小西 伸之、日本ATMビジネスサービス株式会社 原 明功様、和賀 宜美様)
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ATMの現金装填は、「いつ、どのATMを対象に、どれだけの現金を補充または回収するか」を判断しながら進められています。その判断には、長年培われた現場の経験や勘が欠かせませんでした。

しかし人手不足や物流クライシス※に加え、キャッシュレス化の進展などを受けて効率的な運営が求められています。

この課題に挑んだのが、日本ATMビジネスサービス株式会社とキヤノンITソリューションズ株式会社です。
日本ATMビジネスサービスは、ATMの現金装填・障害対応・警備連携など、利用者には見えにくい運用領域から、安心して現金を利用できる社会インフラを支えています。
同社が構想した「共同装填」の実現に向け、キヤノンITSは、日本ATMビジネスサービスが長年培ってきた現場の知見を、需要予測と数理最適化の技術を用いて計画ロジックへと落とし込みました。両社は、装填計画を再現性のある仕組みへと進化させています。

本対談では、共同装填が生まれた背景から、現場の知見をどのように技術へ落とし込んだのか、そして両社だからこそ実現できた共創の舞台裏までを伺いました。

  • ※
    2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことに加え、ドライバー不足や高齢化、さらにEC市場の拡大などを背景に、物流業界で輸送力不足や物流コスト上昇が懸念されている問題

現金社会・日本を支えるATM。巨大インフラを脅かす人手不足の波

キャッシュレス決済の普及が進む一方で、日本はいまなお世界有数の「現金大国」です。店舗での現金決済比率は主要国のなかでも高い水準にあり、日本国内で流通する現金は、日本銀行の統計によると100兆円を超えています。その現金社会を足元で支えているのがATMです。しかし、ATMへの現金輸送・補充を担う現場では、人手不足や物流コストの高騰により、従来型の運用が限界を迎えつつありました。

ATMの現金がどのように補充されているのか、意外と知らない方も多いと思います。まずは、「現金装填」と「装填計画」について教えてください。

原:多くの方は「ATMでお金が下ろせるのは当たり前」と、無意識に思っていらっしゃるはずです。しかし、現物を取り扱っている以上、補充しなければいつかは枯渇します。いつ、どのようにATMへ現金を補充するか、また回収するかを管理するのが、「現金装填」という業務です。

とはいえ、とにかく補充に行けばいいという単純なものではありません。「ATMにどれくらいの現金を入れておくか」「いつ補充するか」を考え、計画を立てる必要があります。これが「装填計画」です。

特にいまなお“現金大国”である日本においては、ATMは重要な社会インフラといえます。すべてのATMをつねに正常に使える状態にしておくことは、私たちにとって最重要の責務です。

日本ATMビジネスサービス株式会社 第一サービス部 部長 原 明功様
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和賀:ATMの装填計画で難しいのが、現金の「切れ」だけでなく「溢れ」も起こしてはならない点です。ATMはお客さまが現金を引き出す「出金」だけでなく、「入金(預け入れ)」も行われます。出金のタイミングはある程度読めるのですが、入金は予測が非常に困難です。

たとえば、近隣のATMが撤去されたことで、急に利用者が増えることもあります。全国のお祭り会場周辺では、さらに複雑です。キャッシュレス決済が減るため、午前中は千円札の出金が急増します。一方、午後になると出店者の方々が売上を入金しに来るため、今度は現金がATMに溜まり、「預け入れできない」という事態が起こり得ます。こうした変化を見越しながら、全国のATMをコントロールする必要があるんです。

日本ATMビジネスサービス株式会社 第一サービス部 警備連携企画課 和賀 宜美様
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近年はキャッシュレス決済が普及していますが、それでも現金やATMの需要は根強いものなのでしょうか?

原:都市部ではキャッシュレス化がかなり進んでいますが、日本全体ではまだ現金需要が根強く残っています。とくに地方では、高齢者を中心に現金を利用する方も多く、ATMが地域の重要な現金インフラになっているケースもあります。

一方で、金融機関のATM台数は減少傾向にあります。だからこそ、残されたATMを安定して稼働させることの重要性は、むしろ高まっていると感じています。

こうした状況を踏まえると、ATMに現金を過不足なく、効率的に装填する「装填計画」が重要になってくると。ただ、従来の装填業務には大きな課題があったと伺っています。

原:大きくは、「人手不足」と「コストの高騰」です。ATMの現金は警備会社さまのトラックで運んでいただいているのですが、特殊な防犯車両を使い、2名体制で運搬する必要があるため、もともとコストのかかる業務でした。さらに、働き方改革や物流2024年問題によって、警送コストは上昇傾向にあります。

このままでは、ATMという社会インフラを維持すること自体が難しくなる恐れがあるため、警備会社さまの負担を軽減しながら、金融機関さまのコストも抑えられるよう、現金輸送を効率化する必要がありました。

和賀:以前は、全国1万台規模のATMの装填計画をすべて人力で行っていました。Excelなどを使って計画を立て、最終的には担当者が1台ずつ状況を確認し、「ここは明日行ったほうがいい」「ここはまだ大丈夫」と判断していたんです。

こうした判断は、ベテラン社員の経験や勘に支えられていました。数字だけでは捉えにくい現場の知識が必要な一方、ノウハウの習得には時間がかかり、担当者の異動や休暇によって業務の精度が左右されるリスクもあります。そこで、誰が担当しても一定の精度で計画を立てられる仕組みが必要だったのです。

こうした課題を解決するために、複数の金融機関のATMをまとめて効率よく運用する「共同装填」という発想が生まれたのでしょうか。

和賀:はい。「共同装填」とは、これまで金融機関ごとに行っていた現金の補充を、1台の現金輸送車で複数の金融機関のATMをまとめて回る仕組みです。ルートをまとめることで、警備会社さまの負担や金融機関さまのコストを削減できます。

ただ、全国規模で実現するには、複数の金融機関の装填計画をまとめて管理する仕組みが必要でした。そこで、金融機関をまたいだ装填の実現により、移動効率を高めるプラットフォームの構築を目指しました。

絶対に切らさず、溢れも発生させない。配送計画とは次元が違う難しさ

その共同装填システムを構築するにあたり、キヤノンITSが持つ「オペレーションズ・リサーチ(OR:数理最適化技術)」の知見が活かされることになります。中尾さんは日本ATMビジネスサービスさまから課題を伺った際、どのあたりにOR技術が活かせるポイントを見出されたのでしょうか。

中尾:オペレーションズ・リサーチ(OR)は、簡単に言えば「限られた条件のなかで、どうすれば最も効率よく運用できるか」を考えるための手法です。

今回のケースでいえば、「1日に巡回可能なATMの数」や「各ATMの稼働/非稼働日の条件」など、守らなければならない条件が多数あります。そのうえで、「ATMの現金を切らさず、溢れさせない」という状態を維持しながら、訪問回数や移動距離をできるだけ減らす必要がありました。

日本ATMビジネスサービスさまのお話を伺ったとき、こうした複雑な条件のなかから最適な答えを導き出すという、まさにORを適用可能な問題だと感じました。これまで培ってきた知見を活かせる領域だと直感したんです。

キヤノンITソリューションズ株式会社 ビジネスイノベーション推進センター ビジネスサイエンス部 中尾 芳隆
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一般的な物流の配送計画とは、どのような違いや難しさがあったのでしょうか。

中尾:これまで我々は、トラックの配送計画を数多く手掛けてきました。一般的な配送では、「いつ、どこに、何を、どれだけ届けるか」が決まっていて、その条件に合わせてルートを最適化します。

一方、ATMでは「いつ、どれだけ補充するか」から決めなければなりません。しかも、現金切れを防ぎながら、ATM内の資金量をできるだけ少なく抑える必要があります。将来の入出金枚数を予測しながら装填のタイミングや量を決める必要があり、ここが大きな違いでした。

さらに、ATMの機種によって構造や紙幣の格納方法も異なります。こうした条件や現場のノウハウを日本ATMビジネスサービスさまから伺いながら、アルゴリズムに落とし込んでいきました。

ATMの構造自体も学ぶ必要がありそうですね。

小西:はい、まずはATMそのものを理解するところから始めました。プロジェクトの初期には、チーム全員でATMのメカニズムに関する専門書を読み込み、現場の方にも教えていただきながら、モデルに必要な知識を1つずつ整理していきました。ATMを正しく理解することが、モデルづくりの第一歩だったんです。

キヤノンITソリューションズ株式会社 ビジネスイノベーション推進センター センター長 小西 伸之
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数ある制約条件のなかで、特にシステム化が難しかったポイントはどこでしょうか。

中尾:最も苦労したのは、さまざまな条件のバランスを取ることでした。

たとえば、訪問回数を減らせば効率は上がりますが、その分、現金切れのリスクが高まります。一方で、現金切れを避けようとすると、訪問回数は増えてしまう。すべての条件を同時に満たせない場合には、「どの条件を優先し、どこまでなら緩和できるか」も決めなければなりません。

ただ、こうした優先順位は、我々だけで判断できるものではありません。そこでプロトタイプをつくり、さまざまな条件で計画を試しながら、「この結果なら現場でも使える」というラインを日本ATMビジネスサービスさまと一緒に探っていきました。

現場の感覚に近い計画を実現するために、試行錯誤を重ねながら、条件の設定を少しずつ調整していったんです。

現場の「暗黙知」をロジックへと昇華。泥臭い対話で最適解を生み出す

まさに両社の知見をぶつけ合う「共創」のプロセスですね。日本ATMビジネスサービスさま側から見て、キヤノンITSの理解度や提案力はいかがでしたか。

和賀:率直に申し上げて、驚かされることばかりでした。当社の人間が言葉にしきれない「頭のなかにあるノウハウやコツといった暗黙知」を、見事にロジックとして言語化してくださったんです。「そうそう、まさにその部分で困っていたんです!」と膝を打つような指摘が打ち合わせのたびに飛び出しました。

小西:我々としても、日本ATMビジネスサービスさまから得られた情報をアルゴリズムに組み込み、それをもとに出力した計画案を和賀さまにぶつけました。すると「ここはこう直したい」という修正が入る。それこそが、まだ我々が抽出できていない「暗黙知」でした。「なぜここはロジック通りにいかないのか」と深掘りしていくと、現場ならではの理由や背景が見えてくる。

原:当社は長年ATM業務を専門にしてきたため、「装填計画とはこうあるべきだ」という固定観念に縛られていた部分もありました。外部のキヤノンITSさんという技術のプロフェッショナルと組むことで、客観的な視点から業務を捉え直すことができた。それが今回の成果につながったと感じています。

写真:インタビュー風景

実際にシステムを導入してみて、現場ではどのような変化や成果がありましたか。また、今後の課題についてもお聞かせください。

和賀:具体的な数字として、特定の金融機関におけるATMの訪問回数を最大45%削減、月平均の保管現金残高を最大20%削減するという大きな成果を上げることができました。当初目指していた目標をしっかりと達成できたことは非常にうれしく思います。

原:課題としては、システムを制御するパラメーター(調整ダイヤル)が多岐にわたるため、それを使いこなせる人材をどう育成していくかという点です。

また、システム構築当時と比べて、金融機関を取り巻く環境も変わりつつあります。今後、金利が上昇すれば、ATM内に置いておく現金そのものにもコストがかかるため、「できるだけATM内の現金を減らしたい」というニーズは、より強くなると考えています。

ただし、現金を減らしすぎれば、現金切れを防ぐために警送の回数が増え、かえってコストが高くなります。だからこそ、「ATM内の現金をどこまで減らせば、警送コストがどれくらい増えるのか」という関係をデータで示し、金融機関さまと最適なバランスを考えられるようにすることが課題だと考えています。

中尾:パラメーターの多さについては、私たちとしても改善していきたい部分です。人間が持っていた複雑な判断や経験をシステムに落とし込んだ結果、どうしても設定する項目が増えてしまいました。

今後は、これまで蓄積してきた「どんな設定にすると、どんな計画が出てくるのか」というデータをAIに学習させたいと考えています。たとえば、「こういう計画をつくりたい」と入力すれば、それに合ったパラメーターの設定をAIが提案してくれる。そんなかたちで、現場の調整作業をさらに効率化していきたいですね。

ATMから社会全体のインフラ改革へ。数理技術が「物流危機」を救う未来

今回の取り組みは、日本オペレーションズ・リサーチ学会において「事例研究賞」を受賞されるなど、学術的にも高い評価を受けました。学会での反響や、受賞の受け止めについてお聞かせください。

中尾:今回のプロジェクトは、「ATMという極めて重要な社会インフラ」を対象とし、「60を超える複雑な制約条件」やトレードオフをクリアしたうえで、「実際に社会実装されて明確な成果を上げている」という実用性が高く評価されました。

理論として研究してきたORが、実際の現場で価値を生み出していることを実感できたのは、研究に携わる者として大きな喜びです。

授賞式の様子。日本オペレーションズ・リサーチ学会の吉瀬章子会長(左)と中尾
※スライド中の「有高」とは、ATM内の保管現金残高を指す。​
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和賀:キヤノンITSさんが手がけられた数多くの事例の中から、私たちのプロジェクトを「学会で発表する価値がある」と選んでいただけたことは、純粋にとてもありがたく、光栄なことだと感じています。

原:「装填計画」という業務は、非常にニッチで、普段は世間の光がまったく当たらない裏方の仕事です。しかし、その裏では多くの人がこれほど緻密なパズルを解きながら社会を支えている。今回の受賞を通じて、インフラ維持の取り組みに光を当てていただけたことは、会社としても大きな意義がありました。

今後の日本における「現金」の動向やATMの価値については、どのようにお考えでしょうか。例えば、高齢化や相続に伴う「タンス預金」の市場への還流など、予測が難しいマクロな動きもあるかと思います。

原:おっしゃる通り、今後10年、15年というスパンで見ると、相続などによって高齢者の方々が持っていた膨大なタンス預金が動き出します。それが地方から都市部へ、あるいはネット銀行へと流れていく。さらに金利が復活したことで、銀行側も積極的に資金を集める動きを見せています。こうしたマクロな現金の動きをいかにとらえるかも、今後のATM運用における重要なテーマになります。

小西:そうした社会的な情報やマクロトレンドを、我々はAIを活用してモデルのなかに組み込んでいきたいと考えています。今回のシステムは、お金が減る方向(出金)だけでなく、増える方向(入金)のモデルも組み込んでいるのが特長です。

災害時の急な入金や、タンス預金の還流といった「溢れ」の傾向をAIで高精度に予測できれば、「出金と入金が相殺されるから、今日は装填に行かなくても大丈夫だ」という意思決定ができるようになります。

将来的には、たとえば特定のATMに入金してくれた利用者にポイントを付与するといったインセンティブ設計と連動させるなど、スタッフがわざわざ行かずとも、利用者の行動によってATM内の現金残高が自然とコントロールされるような世界も夢ではないと思っています。

写真:インタビュー風景

それは画期的な構想ですね。最後に小西さんにお伺いしたいのですが、ATM共同装填プロジェクトで得られた知見は、ほかの社会インフラや物流業界へどのような波及効果をもたらすとお考えでしょうか。

小西:大きく2つの可能性を感じています。1つ目は、「意思決定の拡張」です。今回のシステムは単なる業務の自動化ではなく、これまで人が担っていた複雑な判断をシステムに任せることで、人がより高度な意思決定に集中できるようにしました。今後もAIやORを活用し、さまざまな業界で、人がより本質的な判断に集中できる環境をつくっていきたいと考えています。

2つ目は、物流・サプライチェーンへの応用です。物流の人手不足やコスト上昇によって、これまでのように「必要なものを、必要な場所へ、必要なだけ運ぶ」ことが難しくなっていきます。今回のATMの仕組みは、全国に分散した拠点に適切な量の現金を配置しながら、輸送回数を減らすというもの。これは、現金に限らず、さまざまな物資の物流にも応用できると考えています。

写真:インタビュー風景

お客さまプロフィール

会社名
日本ATMビジネスサービス株式会社
所在地
東京都港区浜松町一丁目30番5号

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