技術サポート業務におけるAIエージェントの活用 テクニカルレポート
公開日:2026年2月9日
R&D本部 言語処理技術部の田中です。
ChatGPTの登場から3年がたち、生成AIを取り巻く技術やサービスは急速に進化し、生成AIの業務活用は試験導入の段階から本格的な導入を検討する段階にきています。各種メディアにおいて2025年は「AIエージェント元年」と言われており、業務の現場でも、従来の「チャットボット」的な使い方から、業務フローの一部をAIに任せる試みが始まっています。
当部では、生成AI活用によるサポート業務の改善を目的として、主にRAG(Retrieval-Augmented Generation)を用いたナレッジ検索/回答支援に取り組んできましたが、実際の業務では、シンプルなRAGだけで対応しきれないケースも少なくありません。現在、このようなケースに対応するために、より複雑なタスクを扱えるAIエージェントの適用を試みています。本コラムでは、まだ実証評価の途中ではありますが、当部でのAIエージェント適用の取り組みについてご紹介します。
AIエージェントとは
AIエージェントとは、ユーザーの指示を理解して、自律的に目標を設定し、目標達成に向けた計画を立て、推論やツールの呼び出しなど多様なタスクを遂行することで課題を解決する大規模言語モデルを基盤としたシステムです。AIエージェントは、ユーザーの指示を受けると、理解、計画、実行、確認/修正、応答という5つのステップを繰り返して課題を解決します(図1)。

STEP1理解(話題抽出)
ユーザーから与えられた質問や指示の内容を読み取り、何を達成すべきかという目標を定めます。曖昧な点や不足している情報があれば、追加で確認し、取り組むべき課題の範囲と目標を明確にします。
STEP2計画
目標を複数のタスクに分解し、タスクを処理する順番と、使用するツールを決めて、解決手順を組み立てます。
STEP3実行
計画に従って、MCP※を通じてデータベース、ファイル操作、外部サービスなどのツールを呼び出したり、他のエージェントと連携したりすることで、タスクを実行します。
STEP4確認/修正
実行によって得られた結果を目標と照らし合わせて評価します。達成度が十分でない場合や矛盾が見つかった場合には、タスクや使用するツールを見直して、計画を修正します。
STEP5応答
最終的な結果を整理し、ユーザーにとって分かりやすい形にまとめて回答とします。まだ不足している情報があると判断した場合には、追加の質問を行い、必要に応じて理解から確認/修正までの流れを繰り返します。
このような仕組みによって、AIエージェントは複雑な課題にも自律的に対応することが可能となり、人は最終的な確認と意思決定に集中できるようになります。
-
※
MCPはAIエージェントが外部のツールやデータベースと安全かつ一貫した方法で連携するための共通プロトコルです
技術サポート業務における活用
現在、当部では、帳票システムの技術サポートにおける問い合わせ対応を対象として、サポート業務におけるAIエージェント導入の実証評価(PoC)を行っています。
技術サポート業務の概要
この帳票システムは、帳票設計ツール、帳票生成エンジン、運用管理ツールなど、複数のアプリケーションから構成されており、お客さまごとの案件に応じてカスタマイズして提供されています。そのため、サポート業務では、お客さまがどのバージョンの、どの構成で使っているかを踏まえたうえで、問い合わせに対応する必要があります。具体的には、以下のような問い合わせがあります。
- 製品仕様の確認や技術的な問い合わせ
- 製品の機能追加や保証外環境への対応といったカスタマイズ依頼の申請受付
- オプション機能やツールの利用の申請受付
このうち申請受付において、サポート担当者は、対応可否を判断するために必要となる以下の情報を収集し、規定のフォーマットにまとめて開発部門に連携します。
- 利用バージョンに対する利用環境(OSやミドルウェア)のサポート範囲
- お客さまにおける過去の対応実績
- 申請内容と同一または類似した過去事例
サポート範囲はExcelシート(サポート環境一覧)にまとめられており、申請書と見比べて確認する運用になっています。
AIエージェントによる技術サポート業務支援
実証評価では、AIエージェントのフレームワークとして、オープンソースソフトウエア(OSS)のLangGraphを用い、AIエージェントの動作パターンとしてはReActを採用しました。ReActはAIエージェントの標準的な動作パターンで、推論(Reasoning)と行動(Acting)を交互に繰り返すことで問題解決を行います。
また、AIエージェントがマニュアル/仕様書や過去の問い合わせなどのナレッジを参照できるように、MCPの仕組みによってデータベース検索やハイブリッド検索を行うツールも実装しました。これによりAIエージェントは製品仕様の確認や技術的な問い合わせに対しての回答が可能となります。特にシンプルなRAGでは対応できなかったマルチホップ質問※にも回答できるようになります。
更に、申請受付業務に対応するため、以下の2つの機能をMCPの枠組みにおいて実装しました。これら機能の追加により、申請書をアップロードして指示を与えると、AIエージェントが情報収集から開発部門に向けた文面の作成まで、一連の作業を自律的に実施することが可能になります(図2)。
- Excelの申請書からバージョンと環境情報の取得
- 特定の環境情報に対して、サポート環境一覧における保証状況の取得
結果として、人は参照した情報や文面の確認、必要に応じた修正指示といった作業に専念すればよくなり、申請書の内容に応じて個々の情報を検索したり、収集した情報を文面にまとめたりする作業から解放されます。
-
※
マルチホップ質問とは、回答のために複数の根拠を組み合わせる必要がある種類の質問であり、検索結果に基づいて、さらに別の事柄の検索が必要となるケースなどが当てはまります。

まとめ
今回、追加した申請書から情報取得する機能やサポート環境一覧を参照する機能は、MCPの枠組みの中で比較的簡単に実現できました。これらは単純な機能ですが、AIエージェントが想像以上にうまく機能し、業務フローの自律性を高められたことに驚きました。
今回ご紹介した取り組みはまだPoCの評価段階であり、精度面やナレッジ整備の面など、解決すべき課題もまだ多くあります。一方で、AIエージェントをサポート業務に導入することで、単なるナレッジ検索や回答支援にとどまらず、申請受付のような一連の業務プロセスを自律的に実行できることを確認でき、生成AI活用の可能性が大きく広がりつつあることを改めて実感しました。
当社では、AIエージェントをはじめとする生成AIの特性を生かした業務支援や提案に取り組んでおります。生成AIの業務活用に関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
筆者紹介
田中 靖大
R&D本部 言語処理技術部所属。自然言語処理や情報検索に関する研究開発に従事。大規模言語モデル(生成AI)の活用に関する研究開発に取り組む。