シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第15回) 画像AI技術とビッグデータ分析技術 コラム
公開日:2019年12月25日

今回は、マシンビジョンの画像処理手法について、現在注目を集める「画像AI技術」、「ビッグデータ分析技術」についてお話しさせていただきます。
ここでは、従来型の手続き型のものを“ルールベース方式”、画像AI技術を活用したものを“画像AI方式”、ビッグデータ分析技術を活用したものを“ビッグデータ分析方式”としてご紹介いたします。
従来型「ルールベース方式」について
ルールベース方式(図1)

一般的な、マシンビジョンの処理の流れは、画像入力、画像処理(処理判定を含む)、結果出力となります(図1)。特に画像処理に関わるところでは、撮像画像に画像変換処理(その後の特徴量を抽出する処理の前に行うため、“前処理”と呼ばれる)を行い、その後、特徴量を抽出し、各特徴量に基準閾値を設け判定します。例えば、対象ワークに線状キズがあると欠陥品として判定したい場合、撮像画像に対して、画像処理技術で線状キズを強調する画像変換処理を行い、線状キズを白、それ以外は黒で表現できれば、特徴量としては、白色の面積(線状キズの長さに相当)を抽出し、面積に閾値をもうけて、いくら以上の長さのものを欠陥と判定することができます。

実際には、外観検査システムでは、線状キズだけではなく、点状キズやムラなど、様々な欠陥を抽出する必要があるため、汎用の画像処理ソフトウェアや、画像処理ライブラリには、前処理用に各種フィルタや特徴抽出機能が搭載されており、それらを活用することで、目的の欠陥の抽出や、欠陥種の分類を行うことができます(図2)。この方式では、開発者が1つ1つルールを決めて設定していくため、どういう画像の変化のものをどのような基準で判定しているかが明確であるため、想定外の事象が起きた際も、対応可否判断がしやすく、また、開発メーカ側にノウハウや知見が蓄積されるため、マシンビジョン開発において、現在も主流の方式として使用されています。
しかし、処理と判定ルールを取り入れていない欠陥については、たとえ同類の欠陥であっても見逃す可能性があるため、可能性ある欠陥については、一つ一つ搭載していく必要があります。そこで、網羅的に前処理や特徴量抽出により、正常状態を取り決めることで、想定外の欠陥や未知の欠陥を含め、様々な欠陥に対応できる方式が求められるようになりました。
「画像AI方式」と「ビッグデータ分析方式」について
「画像AI方式」は、画像データをもとにしたニューラルネットワーク技術で、代表的なものにCNN(畳み込みニューラルネットワーク)があり、多くの画像処理ソフトウェアで採用されています。複数枚の正常や異常などラベル付けした画像データを基に、各ラベルで分類ができるように学習が行われ、そのモデル(学習モデル)が生成されます。新しい画像は、その学習モデルを通すことで分類や判定が行われます。ルールベース方式と比べると、画像データをソースとして扱え、自動的に網羅的な前処理や特徴量抽出が行われ、判定指標も自動的に生成されるため、全自動な方式となります。

「ビッグデータ分析方式」は、データをもとにした多変量解析技術で、画像に限らず、様々なデータ(数値、文字など)から目的変数(例えば、正常や異常)に寄与する変数の抽出や閾値を抽出するルールベース方式へのフィードバッグを行うものと、多変量解析による学習モデルを作成し、学習モデルを用いて判定するものがあります。「ビッグデータ分析方式」の多変量解析では、画像から特徴量を得るまでは、従来型ルールベース方式を活用するため、ルールベース方式の置き換えというよりは、補助的な活用となります(図3)。
今回のまとめ
今回は、マシンビジョンの画像処理の判定方式について、従来型の「ルールベース方式」に加え、話題の「画像AI方式」と「ビッグデータ分析方式」の概略をご紹介いたしました。次回は、「画像AI方式」と「ビッグデータ分析方式」について、それぞれの特徴、長所短所など事例を交えご紹介したいと思います。
筆者紹介

稲山 一幸(いねやま かずゆき)エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト
1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。
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