- コラム
シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第24回)
「Visual SLAM(自己位置推定)について」 [2021.01.28]
今回は、自動車の自動運転、無人搬送車(AGV)など自律走行型ロボットや、ARグラスといった視野制御を伴うモバイルデバイスなどに活用されるVisual SLAM技術についてご紹介します。Visual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)とは、カメラで撮影した映像から自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術です。
Visual SLAMについて
自動車、ロボット、無人搬送車(AGV)、ドローン、ARグラスなどの自走制御や自律制御において、そのもの自体の自己位置推定は、必須技術で、その性能自体が制御全体の性能を左右することから、より正確且つ高速に推定できる技術が求められています。自己位置とは、6DoF(degrees of freedom)で表され、forward(前)/back(後), up(上)/down(下), left(左)/right(右), pitch(ピッチ), yaw(ヨー), roll(ロール)のことです。例えば、ドローンをホバリングさせることを考えると、空中のドローンの6DoFをリアルタイムに認識できれば、pitch(ピッチ)が下がったら、プロペラを制御して、pitch(ピッチ)を上げることで常に姿勢を安定させることができます。
周囲の三次元情報から自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術と呼ばれ、かなり古くから研究されてきました。SLAM技術は、周囲の情報(三次元情報)を取得するセンシングの違いで大きく2つあります。
一つは、Lidar (Light Detection and Ranging) というレーザーセンサー (距離センサー)を用いたLidar SLAM技術で、もう一つが、本件主題のカメラ・イメージセンサーを用いた画像データから取得するVisual SLAM技術です。
Lidar SLAMは、2000年ごろからの先行技術として、距離精度の高いレーザーセンサーを利用したもので、高速高精度な位置姿勢が取得できます。ただし、レーザーセンサーが高額である点と、また、レーザー照射の指定幅(高さ)が狭域となるため、障害物への対応や周囲環境の識別などに課題が挙げられています。
一方、カメラ映像を用いたVisual SLAM技術は、カメラ自体が比較的安価であったことからこちらも研究は古くから進められてきましたが、実用的な推定アルゴリズムの確立と高速化が図られ出した2010年ごろから飛躍した技術になります。現在では、ステレオカメラ自体に専用プロセッサを搭載したデバイスが登場するなど、Lidar SLAM技術に勝る技術へと進化を遂げてきました。
特に、Visual SLAMは、レーザーセンサーと異なり、映像情報をもとに自己位置推定を行っているため、周囲の障害物や人の識別、コンセントや充電箇所などランドマーク(特徴物)の認識など、自己位置推定以外の様々な制御に活用できます。
SiNGRAY Aシリーズ
当社で取り扱うHMS社製SiNGRAY Aシリーズは、ステレオカメラ型Visual SLAMモジュールです。構成は、超小型45mmと80mmの2タイプで、トラッキング性能は、超高精度な1/100トラッキングで、毎秒100フレームの速度で6DoFを出力できます。2019年CES(ラスベガス)ロボット&ドローン部門金賞受賞するなど世界最速&最軽量を実現しています。オプションでToFセンサーや、RGBカラー映像を備えることもでき、カメラにSDKが付属しており、様々な装置や機器のデバイスに搭載できます。
キヤノン社製Visual SLAM「VNS」
キヤノン株式会社では、高速高精度なVisual SLAMソフトウェア「VNS(Vision-based Navigation Software)」を提供しています。2020年8月5日にプレスリリース※を発表し、無人搬送車(AGV)メーカをはじめ、様々な領域での活用が進められています。こちらについては、ニュースリリースをご参考ください。キヤノン社製「VNS」は、当社キヤノンITソリューションズで取り扱っています。
※https://global.canon/ja/news/2020/20200805-2.html
今回のまとめ
今回は、イメージング技術の中でも一つの技術領域となってきたVisual SLAM(自己位置推定技術)についてご紹介しました。近年のイメージング技術は、AI技術、各種アルゴリズムの確立、それらを搭載したスマートエッジデバイスの登場などにより、外観検査領域だけでなく、様々な用途・領域、さらには、新たな市場を生み出すコア技術となってきました。次回以降も、様々な分野・領域で活用が進むイメージング技術についてご紹介してまいります。
筆者紹介
稲山 一幸(いねやま かずゆき)
エンジニアリング事業 シニアアプリケーションスペシャリスト
1992年住金制御エンジニアリング入社、Matrox社製品の国内総代理店立ち上げに参画、以降25年マシンビジョン業界に携わる。
2013年~2016年、キヤノン株式会社にてマシンビジョン関連の新製品開発のソフトウェアリーダとして従事。現在は、エバンジェリストとして活躍中。
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また、高い精度・高速処理が必要とされる各種検査機器、医療機器・印刷機器などに採用されたこれまでの経験を生かして、お客さまの課題やご要望をもとに最適な画像処理ソリューションをご提供していきます。