不良品データ不足でも始められる食品外観検査AIを活用した良品学習で「見た目のばらつき」を補うテクニカルレポート
公開日:2026年7月17日
R&D本部 先進技術開発部の齋竹です。キヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)では、目視確認による製品の外観検査を自動化するAI検査プラットフォーム「Visual Insight Station」を開発しています。外観検査の自動化において、食品分野は見た目のばらつきが発生しやすく特に難易度が高い領域です。本稿では、AI外観検査の導入を検討されている方に向けて、以下3つの視点で解説します。
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不良品データが集まりにくい現場で良品学習(正常データのみで学習する異常検知技術)を適用する考え方
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食品特有の「見た目のばらつき」がもたらす課題と対処の方向性
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微細な異常を捉えるための設計上の工夫と検証結果
AI検査プラットフォームの活用による異物検知
外観検査における「良品学習」の必要性や、AIを活用して異物検知をどのように高めるかをお伝えする前に、AI検査プラットフォームの活用により、どのように異物が検知されるのかをイメージ図で確認してみましょう。
コーンフレークに混入した金属の検知

米菓に混入した髪の毛の検知

なぜ今、外観検査に「良品学習」が求められるのか
製造業において、外観検査は製品の品質を保証する重要な工程です。しかし、人手による検査にはコストや作業負荷、品質のばらつきなどの課題があります。そのため、近年では「AIを活用した外観検査の自動化」が注目されています。
一般的に、AIによる検査では不良品データを学習させることが望ましいとされています。しかし、日本の製造業は品質水準が高く、不良品そのものがほとんど発生しません。このため、十分な不良品データを収集することが難しいという問題があります。
そこで注目されているのが「良品学習」です。これは正常なデータ(良品データ)のみを学習し、多数の良品データがつくる分布(ばらつきの集合)から外れるものを不良品として検知する手法です。不良品データを用意する必要がないため、現実の製造現場に適したアプローチといえます。
良品データがつくる分布(青色の円)から外れるものを不良品として検知

食品外観検査における良品学習の課題「見た目のばらつきという壁」
規格が厳格な製品(部品、パッケージ印刷物など)は、見た目のばらつきが小さいため、良品と不良品の区別がつきやすい一方、自然物由来である食品は、見た目のばらつきが非常に大きいという特長があります。例えば、同じ製品でも具材の配置や形状、色味が微妙に異なることは珍しくありません。
良品学習では「良品データがつくる分布」を基準として異常を検知します。そのため、良品のばらつきが大きい場合、その範囲が広がりすぎてしまい、本来は異常であるものを見逃すリスクが高まります。
ばらつきの大きい食品をどう検査するか「良品学習の技術的工夫」
こうした課題に対し、私たちはAI構造の見直しを行い、食品に適した検査の実現を目指しました。
検知すべき異常に集中するAI構造設計
ねらいと目的
食品では、具材の配置や個数など「良品のばらつき」が大きく、そこに引きずられると誤検知が増えたり、本当に見つけたい異常を見逃しやすくなります。そこで、検査の目的を「異物混入など検知すべき異常」に絞り込む方法を検討しました。
工夫した点および対応
異常にもさまざまな種類がありますが、大きく二つに分類できます。一つはキズや異物混入といった、対象物の構造に対する異常である「構造的異常」です。もう一つは、配置の違いや個数の違いなど、対象物の構造に異常はないが、守るべき制約に違反している「論理的異常」です。例えば、コーンフレークに異物が混入していた場合には不良品(構造的異常)として扱われますが、コーンフレークの配置が異なっていても、不良品(論理的異常)として扱われることはありません。食品において必ずしも異常とは言えない「論理的異常」を過度に異常として扱わないよう、判定の焦点が異物混入のような「検知すべき異常」に向く構造へ見直しました。
効果
不要な検知を減らして判定の安定性を高めると同時に、処理を簡素化することで高速化にもつながりました。
食品の微細な異常を捉える特長抽出の高度化
ねらいと目的
微細な異常を捉えるためには「良品データがつくる分布」を正確に学習する必要があります。そのために、良品データの特長をより正確に得ることを狙いました。
工夫した点および対応
特長を正確に得るためには、画像から特長を抽出するAIの構造が重要となります。そこで、良品データしか学習できないという良品学習特有の状況でも、正確に特長を捉えられる構造のAIを採用しました。
効果
特長をより正確に捉えることが可能となり、食品のようにばらつきの大きい対象でも、異常を区別しやすくなりました。
どこまで検知できるのか、食品での検証結果
これらの工夫を組み合わせた結果、具材の配置が多様である食品や、髪の毛のように非常に細かく人の目でも見つけにくい異物に対しても、検知が可能となりました。
また、処理速度の面でも、現場での実運用を想定した性能を確保できており、生産性を損なうことなく品質向上に貢献できることを確認しています。
まとめ
本稿では、不良品データが集まりにくい現場で良品学習を適用する考え方を解説しました。あわせて「見た目のばらつき」という食品特有の課題に対して行った設計上の工夫、検証例を示しました。
また、本稿でご紹介したAIは、キヤノンITSの外観検査AIの一つとしてラインナップしています。不良品データ不足のためにAI検査の導入が進まない、食品など外観のばらつきが大きい対象で誤検出が課題になる、微細な異物やキズを見逃してしまうなどの課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
筆者紹介
齋竹 良介
R&D本部 先進技術開発部。画像解析技術やAI技術を応用した研究開発に従事。製造業向けAI外観検査技術の高度化や、生成AIを活用した画像解析技術の開発に取り組む。