開発プロジェクトの最前線!Tech Leadの役割と技術資料「BiLD」を解説!テクニカルレポート

公開日:2025年4月22日
R&D本部DI部 シニアITアーキテクトの佐原です。
アプリ開発の世界は日々進化しており、SPA※1(エスピーエー)やAPI※2(エーピーアイ)の活用が一般的になっています。また、開発のスピードや品質を向上させるために、自動でコードをテスト・配備する技術(CI/CD、テスト自動化)も広がっています。ビジネスのデジタル化が進むなか、企業が競争力を高めるには、こうした技術の変化に素早く対応することが重要です。
本コラムでは、開発プロジェクトの技術的なリーダーであるTech Lead(テックリード)という役職に注目し、その役割や具体的な活動内容、さらにTech Leadを支えるために当社が作成した技術資料「BiLD」について紹介したいと思います。
注目すべき開発技術の進化
現在、企業におけるITへの投資の目的が大きく変わってきています。これまでのように業務を支えるシステムだけでなく、新しいビジネスを生み出したり、売上を伸ばしたりするシステムにも投資が広がっています。ITの役割が広がるにつれて、それを支える開発の技術も進化しています。まずは、アプリ開発におけるふたつの大きな変化に注目して解説します。
1.アプリのつくり「アーキテクチャ」の変化
ユーザーに必要なサービスや商品を素早く届けるために、使いやすさ(ユーザーエクスペリエンス)やクラウドサービスの活用(クラウドファースト)が重要になっています。それに伴い、アプリのつくり「アーキテクチャ」も大きく変化しています。
従来のMPA※3(エムピーエー)では、ページを移動するたびに画面全体を読み込み直すため、動作が遅くなりやすいという課題がありました。しかし、より快適な操作性が求められるなかで、画面の切り替えをスムーズにするSPAが広く採用されるようになりました。
また、異なるシステムやデバイスと連携しやすくするために、データのやり取りを効率化するAPIの活用も進んでいます。これにより、Webアプリやスマートフォンアプリがクラウド上のデータとシームレスに接続し、より柔軟でスピーディーなサービス提供が可能になっています。


2.開発の自動化が加速
開発の現場では、アプリをすぐに改善し、イチ早く公開することが大切になっています。そこで、これまで手作業で行っていたプログラムの準備や公開、テストなどを自動でできる仕組みが広がっています。


新技術導入の課題とTech Leadの役割
新しい技術を取り入れると便利になる一方で、慣れていない技術を使うことでトラブルが起こることもあります。たとえば、新しい技術を試すうちに開発が予定より長引いてしまうことがあります。また、よく知らないまま最新のアーキテクチャを採用すると、かえって修正や改良がしにくくなり、システムの管理が大変になることもあります。こうした問題を防ぐためには、新技術を導入するTech Leadの役割を理解し、彼らをしっかりとサポートすることが大切です。
キヤノンITSのTech Leadの役割とサポートツール「BiLD」
Tech Leadは、開発チームがスムーズに作業できるように事前準備をする役割を持っています。たとえば、チームが「何をつくるか」を決めている間に、次のステップで必要な設計のルールを整えます。同じように、設計を進めている間に、その後のプログラムの作成やテストの基準を準備します。
こうした準備は、新しい技術をうまく取り入れるためにとても大切です。そこでキヤノンITSでは、Tech Leadをサポートする技術資料「BiLD」を用意しています。「BiLD」とは、経験豊富なTech Leadが持つ知識やノウハウをまとめた技術資料です。開発チームが新しい技術を導入するときに、役立つ事例やコードなどをすぐに見つけることができます。

ここからは、Tech Leadの活動内容の具体例と、それを支援する技術資料「BiLD」の一部を紹介します。
例1 技術方針の決定
Webアプリや業務システムを開発するときは、目的に合った技術を選ぶことが大切です。とくに最近は、ページの切り替えをスムーズにし、ユーザーの操作を快適にするUXを可能にするSPA※1が主流になっており、それを支えるJavaScript※4のフレームワークにも注目が集まっています。フレームワークの使い分けは、図4にあるように人気度や開発手法、導入しやすさで選定します。

例2 方式設計・パイロット開発
方式設計・パイロット開発ではプログラムの書き方にばらつきがでないよう、統一したルールをつくります。また、開発メンバーが迷わず効率よく作業できるように、お手本となるプログラム(パイロットプログラム)をつくり、チーム全体で共有します。
「BiLD」では、Reactなどのよく使われるフレームワーク向けに、参考となるプログラム構成や実績のあるソースコードを提供しています。これを活用することで、信頼性の高い開発環境を素早く整えることができます。

例3 開発タスクの自動化
チームで開発タスクをスムーズに進めるために、ソースコードを管理する仕組みや自動でプログラムをチェック・実行するサーバー(図5中:テストサーバ、CIサーバ)を整えます。
「BiLD」では、こうした自動化をスムーズに進めるために、CI(継続的インテグレーション)の構成モデルや詳しい構築ガイドを提供しています。これらを活用することで、手間をかけずに効率的な開発環境を整えることができます。


「BiLD」を中心に「共想共創カンパニー」を技術面から支える
今回は、Tech Leadの役割や業務内容の紹介を通じて、SPAや開発タスクの自動化に対応し、キヤノンITSのさまざまな開発プロジェクトで活用されている技術資料「BiLD」について紹介しました。
プロジェクトで使った後は、新たな気づきや改善点を分析し、「BiLD」資料に反映させています。こうした継続的な改善サイクルを通じて、社内で技術ノウハウを効率よく共有しています。そして、キヤノンITSが目指す「共想共創カンパニー」を開発技術の側面から支えています。
今後もこのコラムで、「BiLD」の活動や最新の取り組みを定期的に紹介していきます。
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※1
SPA(シングル・ページ・アプリケーション)とは、ページ全体をリロードせずに、必要な部分だけを更新するWebアプリのことです。例えば、GmailやGoogleマップがその代表例です。これにより、動作が速く、スムーズなユーザー体験を提供できます。
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※2
API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)とは、異なるソフトウェア同士が情報をやり取りするための仕組みです。例えば、天気アプリが気象データを取得する際に、気象サービスのAPIを使います。APIを使うことで、開発者は既存の機能を簡単に活用し、新しいアプリやサービスを作れます。
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※3
MPA(マルチ・ページ・アプリケーション)とは、ページごとにサーバーから新しい情報を取得し、画面が切り替わるWebアプリの形式です。検索サイトで見つかりやすく、多くのページを管理しやすいのが特徴です。これに対し、SPAは、一度読み込んだページ内で必要なデータだけを更新するため、画面の切り替えがスムーズで素早く動作します。
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※4
JavaScript(ジャバスクリプト)とは、Webページやアプリを動かすためのプログラミング言語です。例えば、ボタンをクリックすると画面の内容が変わったり、入力ミスを自動でチェックしたりする機能を作れます。また、ゲームやスマートフォンアプリの開発にも使われることがあり、多くのサービスを支える重要な技術です。
筆者紹介

佐原 義明
R&D本部 DI部所属。シニアITアーキテクト。アプリケーション開発手法の革新を目指し、アーキテクチャ設計手法や開発フレームワーク、標準化手法の研究開発に従事。