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流通・小売業向け:DX推進組織が解決すべき課題と現実的なAIアプローチ (マーケティング施策編)【2024.10】

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昨今、業務課題を解決するために「AI」を活用しようとする動きが広まっていますが、実際の取り組み状況は、業界や企業によって大きく異なります。弊社がご支援しているお客様においても、AIに関する取り組み状況は実に様々です。現状、抱えている課題に対してどのようなアプローチをすれば良いのか、と悩まれている方も多くいらっしゃいます。なかにはDX推進組織が中心となって取り組みを進めるケースもありますが、円滑に取り組みを進めるためには、「前線のリアルな状況を把握し、業務課題を深く理解すること」、そして、「課題解決に向けた現実的なアプローチを提案すること」が重要です。社内のステークホルダー/関係者からの協力を得て、共にAI活用ひいてはDX推進をしていくことが大切です。

そこで、流通業におけるDX推進組織の方向けに、弊社がAI技術を活用してご支援した内容を踏まえ、代表的な課題2つとDX推進組織がそれぞれ取るべきアプローチについてご紹介していきます。
本稿では、マーケティング施策に伴う施策とアプローチを取り上げます。別稿では需要予測に伴う課題とアプローチについて取り上げていますので、ぜひご覧ください。

目次

  • クーポン施策の課題
  • DX推進組織が取るべきアプローチ
  • パーソナライズドマーケティングの課題
  • DX推進組織が取るべきアプローチ

ここ数年、EC(オンラインショップ)開設・(受注管理・商品管理等の)運営のハードルを下げるサービスが充実してきました。これにより、ECサイト数は爆発的に増加し、小売業にとっては地域を問わない競合相手が増え、顧客獲得競争は激しさを増す一方です。また、人口減少や趣味・娯楽の多様化もこれに拍車をかけています。これら外的要因の変化、価値観の多様化に対応するため、マーケティング活動(ブランディング、プロモーション、マーケットリサーチ等)の重要性も増しています。企業は、数多の選択肢の中から取捨選択し、戦略的にマーケティング活動を行う必要があります。
しかしながら、曖昧な戦略によるマーケティング施策の実行は、予算の垂れ流しとなるリスクもあり、限られた予算をより効率的に使うためには、経験や勘に頼るだけでなくデータに基づいた施策の検討が必要不可欠です。

では、“データに基づいたマーケティング施策”にはどのようなものがあり、また、どのような課題があるのでしょうか?代表的なものを2つ見ていきましょう。

クーポン施策の課題

クーポン配布キャンペーンは、リアル・オンラインといった店舗形態を問わず、比較的よく実施されている施策と言えるでしょう。しかし、精度の高い効果測定の実施は難易度が高く、課題が散見されます。
例えば、「クーポンによる来訪者数の増加効果はどれくらいだったのか?」「リピーターになってくれているのか?」「会計総額には寄与したのか?」「以降の来店/来訪頻度は向上したと言えるのか?」「誰に配ると効果的だったのか?」… クーポンによる来訪者数やリピート率をはじめ、一回当たりの支払金額の変化等、様々な指標を見て「クーポンは誰に、どう配るのが最も効果的なのか?」、次回以降の施策実施に活かせるように分析しなければなりません。クーポンによる効果を数字で説明するための代表的な方法として、A/Bテストに代表される実験手法や、因果推論(※)が挙げられます。
この分析をDX推進組織のみで行えるようにすることは容易ではなく、何らかの助けが必要です。

(※)因果推論とは
ある要因が結果にどのような影響を与えているかを科学的に特定しようとする分析を意味します。因果推論では、ある要因が結果に直接的な影響を与えているかを分析し、偶然の関係や第三の要因による影響(疑似相関)を排除することを試みます。例えば、「アイスクリームの売上」と「水難事故の件数」が同時に増えることがあっても、それは気温の上昇という共通の要因があるためで、直接の因果関係ではありません(アイスクリームの販売を制限しても水難事故は減らない)。このようなデータの可視化だけでは見抜けない因果効果を推定しようとする分析が因果推論です。

DX推進組織が取るべきアプローチ

クーポン施策での効果分析の精度には、A/Bテストの実施可否が大きく影響を与えます。この場合のA/Bテストとは、クーポンを配布した顧客群と、配布しなかった顧客群の購買行動(結果)とを比較することで、クーポン配布の効果を測定することです。
しかしクーポンを全員に配布していたり、誰に配布したのか特定できなかったりする場合(=あらかじめA/Bテストを実施するように計画していなかった場合)は因果推論のアプローチを取ることになり、一気に難易度が上がります。
そのため、DX推進組織が取るべき最初のアプローチは、A/Bテストが行えるように施策を打つことができないか、マーケティング組織と相談し、合意しておくことです(具体的には、購買行動の追跡が可能な顧客に対して、クーポンを配布する群と配布しない群に分けることを提案する、など)。 そうは言っても、様々な理由から、そのような前提条件を整えられないケースも多いでしょう。そうした場合は、因果推論によるクーポンの効果推定を検討することになります。DX推進組織の方であれば自己学習も可能ではありますが(データ分析を専門とし学習コストを十分にかけられるポジションでなければ)、外部の専門家/データサイエンティストを調達することを推奨します。

パーソナライズドマーケティングの課題

アップセル・クロスセルの提案は、最もシンプルな方式(店舗が売りたい商品を全顧客に推奨する)から始まり、顧客セグメントごとに同一の商品を推奨するコンテンツベース方式、購買履歴データを用いた協調フィルタリング方式などのバリエーション増加/進化を遂げてきました。現在では、さらに一歩進んで、パーソナライズに力を入れたマーケティングが盛んになっています。しかし、パーソナライズドマーケティングにも、主に2つの課題があります。まず、一つ目の課題として、データの準備があります。ECの購買履歴データ、Webサイトアクセスデータ、実店舗での購買履歴データ、モバイルアプリでの行動履歴データ、カスタマーサービスのデータ、キャンペーン実績データ等々、様々な種類のデータを繋げ、分析する環境が必要です。また、環境だけではなく、そこで実際に手を動かすデータ分析要員の確保も欠かせません。
次に二つ目の課題としては、適切なAIを用意することの難しさが挙げられます。顧客の興味・関心を推測して商品やコンテンツを推奨するには、AI技術(機械学習)が適しています。ですが、そこには要考慮事項が多くあります。例えば、誤ったデータや重複したデータの修正/削除(データクレンジング )対応、(新商品や新サービスであるために)蓄積されたデータが少ないことへの対処、偏りが大きいAIにならないようにするための調整、状況の変化に応じた継続的なAIの再学習、レコメンド効果の定期的な測定などがあります。
これらもDX推進組織のみで行えるようにすることは容易ではなく、何らかの助けが必要でしょう。

DX推進組織が取るべきアプローチ

一足飛びに多面的なパーソナライズドマーケティングを進めようとすると、コストがかかってしまう一方で、効果も曖昧な状態に陥りやすくなります。そこで、まずは、既存のチャネル内にパーソナライズされたレコメンデーションの仕組みを低コストで導入し、効果測定してみることから始めてみると良いでしょう。マーケティング担当者の理解も得やすく、おすすめです。

EC(オンラインスストア)の場合

ECであればカートに商品を入れた後の画面やEメール内でのレコメンドを検討します。 WebサイトやEメールを活用したレコメンドであれば、既に多くのソリューションが存在します。低コストのもので試してみて、効果を確認することができます。
そして、それと並行して、本格的なパーソナライズの下準備を進めましょう。DX推進組織で行うべきことは、まずは「各種データを統合、扱えるデータ環境の整備」を行い、次に、「どのコンテンツを誰に提示すると良いか考えてくれるAIを開発・運用する環境の整備」を進めることです。また、商品のプロモーションやクーポン以外のコンテンツも必要ではないか検討し、担当部門と調整を進める必要があります。データ環境やAI環境の整備にはデータアーキテクトやデータサイエンティストの知見や協力が必要になります。自社内での人員調整が難しい場合は、外部の専門家への相談/依頼検討してください。

実店舗の場合

実店舗の場合は、自社のモバイルアプリがパーソナライズによく利用されています。ただし、モバイルアプリは開発にも運用にも高いコストが必要になります。現在では、既に似たようなモバイルアプリが乱立しており、顧客からの印象は必ずしも良いとは言えません。モバイルアプリ導入の際は、徹底的に顧客の目線に立ち、他の類似アプリを差し置いてでもデバイスの容量を割きたくなるようなアプリ/サービスを目指す意識が求められるでしょう。そうした検討/プロセスを経て、前述のクーポンの効果分析と同様に、定量的な効果分析を行える企画設計と体制を整えましょう。

その他にも、データに基づいたマーケティング施策には、休眠予測や解約予測に基づくアプローチ、プライシングなど様々なものがあります。なお、マーケティングとデータ分析の関係については、今後のコラムでも紹介を行う予定です。

今回は流通・小売業における代表的な課題2つのうちマーケティング施策に関する課題と、DX推進組織としてのアプローチ戦略を紹介しました。 弊社はDX推進組織と実務担当組織が一体となって取り組みを進めていけるよう、代表的なデータに基づいたマーケティング施策とその課題、解決に向けたアプローチをご提案いたします。紙幅の都合上、概要的な解説に留まっておりますが、皆様のお悩みを少しでも軽減できれば幸いです。

需要予測に関する課題については別コラムにて紹介していますので、ご興味・関心をお持ちの方はぜひご覧ください。

筆者紹介

外谷地 茂(そとやち しげる)

キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルビジネス統括本部
<略歴>
2007年からキヤノンITソリューションズで勤務。アクセス解析を端緒にデータ分析の世界に入り、Webマーケティング、デジタルマーケティングの分野で分析やコンサルティング、実装支援を提供。 現在は流通業を中心に統計や機械学習を用いたデータサイエンスで顧客の皆様のビジネスを支援。

キヤノンITソリューションズ株式会社 外谷地 茂

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