顧客理解を深めるデータ分析コラム
公開日:2025年1月14日


近年、顧客のニーズは多様化し、購買行動も複雑化していくばかりです。そのため、多くの企業は、商品・サービス数、広告媒体や販売チャネルを増やすことで、変化に対応しています。しかしながら、顧客のニーズに合った商品・サービスを開発し、その上で、適切な広告媒体・販売チャネルの選択を行うことは、容易ではありません。そうした状況下で注目されているのが、顧客の行動データや購買データ等の「データを活用したマーケティング」です。
現在、マーケティングにおけるデータ活用は二極化しています。『総務省(2020)「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」』によると、マーケティングでのデータ活用している割合は大企業で46.7% 中小企業で20.7%となっています。データを活用したマーケティング活動を積極的にしている企業もある一方で、まだまだデータを活用できていない企業も多いようです。
そこで、本稿では、現状のマーケティング活動において「データ活用をできていない」という課題を抱えている方に向けて、マーケティングの基本となる「どのように顧客理解を深めるのか」という課題に対する購買データや行動データなどを使ったデータ分析のアプローチをご紹介します。
目次
- なぜ顧客理解を深めることが重要なのか
- データ分析による顧客理解
- 顧客理解を深める方法(データ分析の位置づけ)
- ユースケース
- さいごに
なぜ顧客理解を深めることが重要なのか
売れる商品・サービスを生み出し、適切なマーケティング施策を打つためには、顧客のニーズを的確に捉える必要があります。
例えば、以下の図のように、顧客を誤って理解していると、せっかく行ったマーケティング施策が期待した効果を十分に発揮しない可能性があります。

顧客理解を深める方法(データ分析の位置づけ)
顧客理解の方法としては、①営業担当者・マーケティング担当者の経験から明らかにする方法、②インタビューやアンケートなどのリサーチを行う方法があります。それに加えて、近年、重要視されているのが、『顧客の購買データや行動データなどを用いたデータ分析』です(以下、「データ分析」とします)。
インタビューやアンケートでは、直接的に顧客の深い考えを追究するための質問ができる一方、対象者が限られてしまう、質問の仕方によってバイアスが生じる、というデメリットがあります。購買データなどを用いたデータ分析による手法は、リサーチ(インタビューやアンケート)に比べて対象者を多くできる、顧客の自然な消費行動によるデータを扱うことでバイアスが生じるリスクを減らせるというメリットがあります。顧客の深い考えを直接聞くことこそできませんが、購入している商品や購入に至るまでの行動から、推測できることも多いです。また、データから捉えた顧客のニーズに応じて、特定の顧客に対してクーポン配布を行うなど、そのままマーケティング施策の実施に繋げられる点もメリットと言えるでしょう。
顧客理解のためのデータ分析に使用されるデータの代表例として、以下があります。もちろん、アンケートで得られた回答も、分析対象に含めることができます。取得しやすいデータや既に蓄積されたデータから分析を始めると良いでしょう。

顧客理解のためのデータ分析で用いられるデータの代表例
分類 | データの種類 |
---|---|
顧客属性データ | 年齢、性別、職業、居住地 |
購買データ | 購入日、購入商品、価格 |
行動データ | webサイトでのクリック、アプリ使用時間、カート追加商品 |
SNS利用データ | 投稿内容、「いいね」やシェア、コメント |
アンケート回答データ | アンケートの回答内容 |
データ分析による顧客理解の手法
顧客理解のためのデータ分析には、様々な手法がありますが、共通して言えるのは、目的に応じて、顧客を類似したグループに分け、それぞれの構成比や特性を明らかにしていく、ということです。
グループ分けの代表的な手法
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セグメンテーション分析
顧客を年齢、性別、地域などの属性で分類し、それぞれの構成比やグループごとの特性を明らかにする
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RFM分析
顧客の購買履歴を「Recency(最終購入日)」「Frequency(購買頻度)」「Monetary(購買金額)」の3指標でグループ分けし、それぞれの構成比やグループごとの特性を明らかにする
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デシル分析
顧客を購入額順に上位から10段階に分け、それぞれの構成比やグループごとの特性を明らかにする
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クラスター分析
機械学習で、類似した特徴を持つ顧客をグループに分け、それぞれの構成比やグループごとの特性を明らかにする
特性を明らかにする代表的な手法
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可視化
顧客データをグラフやチャートで視覚的に表現し、グループ間の違いや傾向を直感的に把握できるようにする
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統計量の比較
各グループの平均や分散などの統計量を比較し、顧客グループ間の違いや特徴を定量的に明らかにする
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決定木
グループ分けに影響を与える特徴を階層的に分岐させ、どの条件が顧客行動に強く関係しているかを明示する
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機械学習
大量のデータから複雑なパターンを自動で学習し、予測モデルを作成することで、顧客グループの特性を明らかにする
ユースケース
データ分析から顧客理解を深め、その効果を発揮したユースケースをご紹介します。
食品小売業A社
A社が運営する、とある店舗では、売上が伸び悩んでいました。そこで、顧客の来店回数を増やす施策を考えるため、来店回数で顧客を分け、顧客理解を深めました。そして、顧客にあった施策を実施し、結果を出すことができました。
分析でわかったこと
来店回数が多い顧客:生鮮食品をよく購入しており、「手作り志向」 が強い
来店回数が少ない顧客:総菜、インスタント食品をよく購入しており、「効率重視志向」が強い
→広い店舗に、総菜、インスタント食品が点在していて、来店から購入まで時間が掛かることがニーズと合っていない可能性がある

施策
総菜、インスタント食品を入り口付近にまとめるなど、店舗のレイアウトを変更し、「効率重視志向」の顧客にとっても買い物しやすいようにした
効果
「効率重視志向」の顧客の来店回数が向上し、売上も伸びた
レンタサイクル業B社
B社は、都市部でレンタサイクルの事業を開始しましたが、利用者数が伸び悩んでいました。改めて顧客のニーズを掴むため、データ分析を行いました。そして、都市部の利用者にあった施策を実施することができ、効果を得られました。
分析でわかったこと
利用者には、通勤型、観光型、都市移動型(公共交通機関の代替として利用)の3パターンがある。その中で、通勤型の利用者数が少ない
→料金プランが通勤型の利用者には合っていない可能性がある

施策
既存の「1日乗り放題プラン」、「短時間プラン」に加え、通勤型の利用者向けに「定期プラン」を提供開始した
効果
通勤型の利用者が増え、売上が向上した
アパレル販売業C社
C社では、実店舗販売とECサイトでの販売を行っています。実店舗よりもECサイト利用者の方が、年間の購入金額が多い傾向があったため、実店舗からECサイトへ送客する施策を検討していました。そこで、実店舗での購入がある顧客の中で、ECサイトでの購入がある顧客/ない顧客の特性をそれぞれ明らかにしました。その結果、ECサイトへ送客するための施策を検討・実施し、効果を得ることができました。
分析でわかったこと
ECサイトでの購買がある顧客:インナーの購入が多い、平日夕方の来店が多い、リピート購入率が高い
ECサイトでの購買がない顧客:高価格商品購入の割合が多い、休日の来店が多い

施策
ECサイトでの購買がない顧客に向けて、インナーなど低価格商品の良さを知ってもらうためのECサイト限定クーポンを店頭配布した。さらに、ECサイトへの送客のため、その他の種類のECサイト限定クーポンも継続して配ることにした。
効果
ECサイトの利用者数、顧客一人当たり年間の購入金額が増え、売上が増加した
このように、データ分析から顧客理解を深めることで、顧客にあった適切な施策を実施し、売上や利益向上を達成することができます。
成功のポイント
-
目的を明確にすること
何のために何を明らかにするのか、それによってアクションをどう変えるか、事前に整理しておく必要があります。
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仮説に基づき分析を進めること
闇雲にデータを分析しても、得られる気付きは少ないでしょう。仮説に基づき、分析の方向性を決めなければなりません。
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PDCAを回すこと
マーケティング施策実施後の効果の評価、分析の実施と継続的に行うことで、効果を得られます。クーポン配布であれば、配布リスト、使用履歴もデータとして取っておくことで、顧客のクーポンへの反応の度合なども分析できるようになります。
また、PDCAを回すには、さまざまなデータを集約するデータ基盤があるか否かが非常に重要なポイントになります。弊社では、データの蓄積から活用までフェーズや段階に合わせたサポートしております。お困りごとがあれば、お声掛けください。
こちらのセミナーでは、事例の紹介もしておりますので、是非ご確認ください。
さいごに
本稿では、データから顧客の「現状」を理解することを主題としました。「現状」からさらに一歩踏み込み、顧客理解を深めるためには、AIの活用も有効だと考えられます。たとえば、データ分析を手助けするAIを使えば、顧客の成約確率、休眠確率など「未来」を予測し、マーケティング施策に活用することもできます。また、提供する商品数・コンテンツ数が多い場合や、幅広い顧客をターゲットにする場合には、顧客をパターン化して理解し、施策を打つことは難しいです。しかし、AIはそういった場合にも非常に有効です。AIを活用すれば、一人ひとり個別化したアプローチが可能になります。本稿では扱えなかった、これらのAIを活用し「未来」を予測したユースケースについては、今後、ご紹介いたします。
筆者紹介

西 麻衣(にし まい)
キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルビジネス統括本部
<略歴>
2023年からキヤノンITソリューションズで勤務。流通・小売業のお客様をメインにデータ利活用を支援。
保有資格 AWS Certified Machine Learning Engineer - Associate、統計検定2級など
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