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製造業における不良要因データ分析の基本コラム

公開日:2024年8月9日

aiヘッダー

製造業における品質管理の常識が、今まさに変革を迎えようとしています。製造業が抱えている課題の一つに、製品の品質問題が挙げられます。従来の品質管理手法では難しい部分に対して、「データ分析」の力で解決する手法が注目されています。

本稿では、製造業における不良要因分析について、品質管理を担う方や現場にデータ分析を取り入れてみたい方に向けて解説します。データ分析の専門知識がなくても分かりやすい内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。

1.製造業における重要課題:なぜ不良品が問題になるのか?

製造業にとって、不良品は深刻な問題です。不良品の発生は、企業にとってどのような影響を及ぼすものなのでしょうか。単に製品価値が下がるだけではありません。顧客が企業に対して抱くブランドイメージにも大きく影響を与えてしまい、結果として企業にとって深刻なダメージを与えます。不良品発生により起こりうる影響としては、主に以下4つが挙げられます。

顧客満足度の低下

不良品が顧客の手に渡れば、当然ながら満足度は低下します。場合によっては、製品の欠陥が原因で事故や怪我につながることもあり、企業の社会的責任が問われる事態にも発展しかねません。

ブランドイメージの低下

不良品がたびたび発生していると、企業の品質管理能力に対する疑念が生じ、ブランドイメージが低下します。顧客は他の企業製品への乗り換えを検討するようになり、売上に悪影響を及ぼします。

市場シェアの喪失

競合他社がより高品質な製品を提供していれば、顧客はそちらに流れてしまいます。結果として、市場シェアを喪失し、経営が悪化してしまう可能性があります。

不要なコストの発生

不良品が発生すると、次のようなコストが発生します。

  • 再生産コスト: 不良品を廃棄し、新たに製品を生産するコスト
  • リコールコスト: 市場に出荷済みの不良品を回収し、修理や交換を行うコスト
  • 顧客対応コスト: 顧客のクレーム対応や、製品の回収・交換に伴う事務作業コスト
  • 機会損失: 不良品対応中に本来生産できたはずの良品を生産できなくなるコスト

2.不良の原因をデータから分析する

従来の品質管理では、経験や勘に基づいて不良品の原因を特定していました。しかし、この方法では、根本的な原因を見逃してしまうことや、対策が後手に回ってしまうことが少なくありませんでした。

そこで近年注目されているのが、「データ分析」を活用した不良要因分析です。特にAIの中でも機械学習と呼ばれる技術は、膨大なデータから傾向を学習し、学習した結果に基づいて人間では見つけにくいパターンや傾向性を発見することが可能です。この技術を利用することでより正確に、不良の発生を予測したり、不良発生要因を分析したりできます。

データ分析の活用には、以下のようなメリットが考えられます。

  • 経験や勘に頼らない、データに基づいた客観的な分析が可能
  • データから要因を探索するため、仮説立案が容易
  • 品質状況の把握、要因の分析のサイクルにより継続的な業務フローの改善が可能

また、下図はデータを用いた不良要因分析のステップを示しています。

不良要因分析ステップ

データ分析の代表的な手法は、以下の通りです。

データ分析の代表的な手法

なお、どの分析手法を採用するか、そのときの状況や取得可能なデータ量によって適切な手法を選択する必要があります。

データ分析は専門的な知識やスキルが必要となることもありますが、近年では使いやすいツールも登場しています。弊社でもツールを使ったデータ分析支援サービスを提供しております。お困りごとがありましたらお気軽にお問合せください。

3.ユースケース

データ分析を活用した不良要因分析は、様々な業種で成果を上げています。その中から、製造業における具体的なユースケースを3つご紹介します。

ユースケース1:自動車部品メーカー

自動車部品メーカーA社は、エンジン部品の不良品発生率が慢性的に高くなっていました。従来の品質管理手法では原因を特定できず、再発防止策も効果が上がっていませんでした。

そこで、AutoMLツールを用いて不良発生を予測し、予測モデルから得られるインサイトを分析し、対策を講じたところ、大きな効果を上げることができました。

分析でわかったこと

  • 特定の製造ラインで不良品発生率が高い
  • 特定の作業工程で不良品が発生しやすい
  • 特定の納入業者からの部品で不良品が発生しやすい

対策

  • 不良発生確率の高いロットは予め対応する
  • 不良品発生しやすい作業工程を見直し、作業手順を改善する
  • 不良品発生率の高い納入業者との取引を見直す

効果

これらの対策により、不良品発生を事前に知って対策をすることができ、またその原因の分析にかかる工数を大幅に削減することができました。

ユースケース2:食品メーカー

食品メーカーB社は、菓子製品の品質クレームが頻発していました。しかし、クレームの具体的な要因を特定することは困難でした。

そこで、顧客からのクレーム内容と製品の製造データ、販売データなどを分析し、対策を講じたところ、大きな効果を上げることができました。

分析でわかったこと

  • 特定の原材料を使用している製品でクレームが多い
  • 特定の製造時期の製品でクレームが多い
  • 特定の販売地域でクレームが多い

対策

  • 問題のある原材料の使用を中止する
  • 問題のある製造時期の製品を回収する
  • 問題のある販売地域での販売を中止する

効果

これらの対策により、顧客からのクレームは大幅に減少しました。

さらにクレーム内容を分析することで製品開発の新たなアイデアを得ることができました。

ユースケース3:電子機器メーカー

電子機器メーカーC社は、スマートフォン製造における不良品発生率が課題でした。従来の品質管理手法では、膨大な設備稼働データ、生産データ、品質データなどを用いた多角的な分析ができておらず、再発防止策も後手に回っていました。

そこで、機械学習を用いた不良要因分析システムを開発しました。このシステムは、様々なデータから不良品発生のパターンを自動的に学習し、原因となる要因を特定することができます。

このシステムを導入した結果、工程改善にかかっていた工数を大幅に削減することができ、品質向上に寄与しました。

課題

  • スマートフォン製造における不良品発生率が高い
  • 従来の品質管理手法では、膨大なデータを活用した多角的な分析が困難
  • 不良発生原因の特定と再発防止策の立案が遅れていた
  • 工程改善に多くの時間とコストがかかっていた

対策

  • 機械学習を用いた不良要因分析システムを開発
  • システムは、設備稼働データ、生産データ、品質データなどを自動的に分析
  • 不良品発生パターンを抽出し、原因となる要因を特定

成果

  • 工程改善にかかる工数を大幅に削減
  • 品質不良による損失を大幅に削減
  • 再発防止策の立案と実行を迅速化

ユースケースから見える成功のポイント

データ分析を活用した不良要因分析を成功させるためには、以下のポイントが重要です。

  • 目的設定の明確化

    不良要因分析を行う目的を明確に設定することで、必要なデータや分析方法を絞り込むことができます。

  • 適切なデータ収集

    分析に必要なデータを収集し、品質に影響を与える可能性のある要因を洗い出します。

  • 適切な分析手法の選択

    収集したデータの性質や分析目的に合わせて、適切な分析手法を選択します。

  • 分析結果の解釈、アクションの実行

    分析結果を正しく解釈し、根本原因を特定した上で、効果的なアクションを講じます。

  • 継続的な改善

    不良要因分析は、一度行えば終わりではなく、継続的に行うことで効果を維持することができます。

あくまでも、データ分析は課題解決のための手段の一つです。大切なのは、その分析結果に基づいて、適切なアクションを講じ、実行に移すまでをセットで行うことです。

4.さらなる分析に向けて

より詳細に、より深く、分析を行うためには、多角的なデータに基づく必要があります。たとえば、過去の不良品データだけでなく、生産データ、設備データ、環境データなど、様々なデータを収集・分析することで、より深い洞察を得ることができます。これら多角的なデータを用いて機械学習を行えば、より高度な分析を行うことができ、複雑な因果関係を解明や、従来の分析では見逃しがちだった潜在的な問題も発見できます。

データ分析の効果を最大化するには、チームワークも重要な要素となります。製造部門、品質管理部門、設計部門、営業部門など、各部門が協力して情報を共有することで、より規模の大きな問題解決に繋がります。

データ分析の専門家や不良品対策の経験豊富な専門家の知見を活用することがより的確な対策の立案として有効になります。一方、不良品の発生状況を最もよく理解している製造現場の従業員の意見を積極的に取り入れることも重要です。現場の意見や状況に合わせたアクションを取らないと、そもそもの問題意識が異なっていたり、逆に現場の負荷を増やしてしまったりする可能性があります。

データ分析プロジェクトを行う際には、分析結果に応じたアクションが適切な形で取れるよう、事前に現場部門を筆頭とした関係部署と連携しておくことが肝要です。

データ分析による要因分析は非常に強力な手段であるため、多くの気づきを得ることができるでしょう。しかしながら、データのみを見ていると時には誤った解釈をしてしまうことも少なくありません。分析した結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、データの裏に隠れている真実は何か?を常に意識しながら分析を進めることが鍵です。

筆者紹介

キヤノンITソリューションズ株式会社 佐野 祐太郎

佐野 祐太郎(さの ゆうたろう)キヤノンITソリューションズ株式会社 デジタルビジネス統括本部

<略歴>2019年からキヤノンITソリューションズで勤務。 前職の印刷会社では、RFIDタグ、ICカードの開発に従事。 現在は、これまでのものづくり現場での経験を活かして製造業のお客様をメインにデータ利活用支援を行う。

AI(人工知能)
AIの活用が進み、AIを使ったソリューションが身近になる一方、実用化にまで至らないAIプロジェクトも数多く存在します。
キヤノンITソリューションズでは、長年にわたるSIerとしての経験と業務知識、さらにはR&D部門での研究によって得た知識や、商品開発の技術を駆使して、お客様の課題解決にAIを活用した支援を行います。