キヤノンの新領域に広がるソリューション群を一堂に展示

  • 特集②

Canon EXPO 2023 展示会場リポート

キヤノンはイメージング技術を軸に幅広い領域で事業に取り組んでいます。現在は「プリンティング」「イメージング」「メディカル」「インダストリアル」という4つの産業領域を中心に、社会貢献度が高く、革新的な分野での成長を追求しています。キヤノングループの多彩なソリューションの一部を、展示会場の様子と共にお伝えします。

Canon EXPO 2023

「つくる」と「くらす」のこれからを一足先に体験

Canon EXPO 2023の展示会場は、「コアコンピタンスの丘」と名付けられた、入り口近くに小高く設置されたステージを起点にスタートします。

キヤノンは、カメラ・プリンターメーカーとしての歴史を礎に、現在ではさらなる多角的な事業展開を果たしています。会場では、キヤノンの4つの産業領域である「プリンティング」「イメージング」「メディカル」「インダストリアル」にて、最先端の製品やサービスを展示。ステージからは活気あふれる会場の全体を一望でき、新たな方向性を示すキヤノンのダイナミズムを実感いただきました。

展示会場の奥に進んで最初に目に入るのは、「ソリューションの広場」内の「『つくる』のこれから」と題されたエリアです。

「印刷現場の可視化ソリューション」のブースでは、多様な商業印刷物に対応したオンデマンド印刷システムが披露されました。従来のカタログやマニュアル、雑誌のみならず、看板、バナー、インテリアなど、印刷技術の高度化により実現できることが多岐に広がっており、私たちの生活に彩りを与えてくれます。

「映像DX」のブースでは、キヤノンが開発したMR(Mixed Reality)システム「MREAL」を実演。そのバーチャルショールームは多くの来場者から注目を集めました。この技術では、実寸大の自動車CGが現実空間に融合し、指輪型UIデバイスを使用して車体の色を変更できます。内装やインテリアの素材も驚くほどリアルに再現し、まるで本物の自動車が目の前にあるかのような臨場感を演出しました。

もう1つの「『くらす』のこれから」と題するエリアで目を引いたのは、これまでとは次元の異なる映像体験です。

「3Dイメージング」のブースでは、専用VRレンズとEOS Rシリーズカメラを使用したEOS VR SYSTEM、特殊機材なしで高精細な立体画像を生成できるEOS画質2D・3D変換、360度の映像体感を実現するボリュメトリックビデオなどの技術を紹介しました。「より美しくリアルなものを見たい」という人間の本能的欲求に応えるべく、キヤノンはEOSシリーズなどで長年培ってきた映像技術を基に、臨場感あふれるかつてない映像体験を提供していきます。

さらに「公共安全ソリューション」のブースでは、AI機能搭載で高度なエッジ解析を可能とするAxisネットワークカメラと最新の映像解析を用いた都市監視システムを紹介。当て逃げや交通違反捜査に応用するシミュレーションも披露し、多くの来場者から注目を集めました。

再生医療からものづくりまで未来の可能性を共に探求

次に進むと「シナジーの泉」のゾーンです。

「夢の医療を現実へ」のブースでは、再生医療で用いる自家iPS細胞の製造を自動化する装置を展示。この装置内での具体的な処理を“細胞視点”で理解できる、タブレットを用いた製造体験ツアーも実施しました。

また、「がん検査をより正確に、より早く」のブースでは、画像情報(大きさや形、陰影などの特徴)と血液検査(腫瘍の性質)の2つのデータを組み合わせた統合解析技術を紹介しました。

一方、「超小型人工衛星本体とコンポーネント」のブースで紹介したのは、従来の大型衛星の約1/10サイズでありながら、同等の高解像度撮影を可能とする技術です。キヤノンは、衛星用の光学系から各種コンポーネントまで内製化し、トータルソリューションを提供しています。

「モビリティ空間把握」ブースでは、キヤノン独自の空間把握技術を搭載した、賢くフレンドリーなオフィスロボットやホームロボットを展示しました。少子高齢化に伴う施設維持管理や情報サービス業務の人手不足の解消など、人とロボットがより自然に協働するモビリティ社会を表現しました。

さらに、「ホリスティックの森」のゾーンでは、商品に入る技術(基盤要素技術)と商品を創る技術(価値創造基盤技術)の2つのテーマに沿った展示を行いました。

商品に入る技術として紹介されたのは、人の眼をはるかに超える“撮る”能力です。例えば、フォトンカウンティングという技術は、光の粒子を1つずつ捉えることができる機能を備えます。可視光領域では、暗視カメラにも使われるSPADセンサーの展示を行いました。X線領域では、キヤノンのデバイス技術とメディカル技術のシナジーにより、CT診断など医療機器での応用が期待されています。

もう1つの商品を創る技術のエリアでは、製造方法を革新するものづくりプラットフォームを紹介しました。例えば、サイバーフィジカルロボットシステムは、サイバー空間上のモデルでロボットの動作を簡単に設定し、それを実際の空間で再現する技術です。また、マルチプロセスロボットセルは、複数の作業をスムーズにこなすロボットで、作業の切り替えを簡単に行い、1台のロボットを複数の作業場所でシェアして多様なタスクを担わせることが可能です。キヤノンが提供するインダストリー向けソリューションは、ものづくりの世界にも大きな変革を進めていきます。

廃棄ロスやCO2排出削減 医療のセキュリティ向上に貢献

ここまでCanon EXPO 2023の展示会場全体を俯瞰してきましたが、ここからはキヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)が主導する5つのソリューションを紹介します。

1つ目の「FOREMAST+SCM計画システム」は、キヤノンITSが長年培ってきた数理技術を活用し、在庫適正化と輸送平準化をめざすソリューションです。これにより実現が期待されているのが、廃棄ロスの削減や環境負荷の軽減です。

サステナビリティに対する意識が高まる中、多くの企業がこのソリューションを導入しており、展示ブースでは次のような事例紹介も行いました。

商品製造・卸売業では、販売状況の可視化から生産指示までカバーした業務志向のシステムに適用し、計画業務の大幅な効率化を実現しています。食品製造業では、自社ニーズに合わせてきめ細かくカスタマイズされた在庫計画システムにおいて、サプライチェーン管理に基づいた組織やワークフローを実現しています。生命保険業では、正確な需要予測に基づく在庫管理システムで印刷物や販促物の発注量を最適化するとともに、業務コストも大幅に削減しています。飲料製造業では、物流キャパシティーを考慮した生産・供給補充を計画するシステムに適用することで、ドライバー不足や業務属人化などの課題を解決しています。

キヤノンITSはこのソリューションを単にITサービスとして提供するだけではなく、「技術と人材の強みを生かしながら、“共想共創”型のアプローチでお客さまと共に新しいビジネスをつくっていきます」と強調しました。

FOREMAST+SCM計画システム

2つ目の「医療ITクラウドサービス」は、クラウド上で医療情報を取り扱う際に求められる医療情報ガイドラインの順守を包括的に支援するソリューションです。医療ITクラウドコンサルティングサービス、医療ITクラウドシステムインテグレーション、医療ITクラウドコンプライアンスサービスの3つのサービスから構成されています。キヤノンITSの強みは、医療情報ガイドラインや情報セキュリティ、クラウドに精通したコンサルタントが、システムの企画・構築から運用まで一貫してサポートできることです。展示ブースでは「医療情報ガイドラインの順守をサポートし、さまざまな情報を安全に管理することで、セキュリティレベルを底上げしたいと考えるお客さまのニーズに応えます」というメッセージを発信しました。

医療ITクラウドサービス

オフィスから製造現場、そして農業の働き方を変えていく

3つ目の「テレワークサポーター」は、第三者によるPC画面ののぞき見やなりすましを検知し、在席・離席ログも記録するクラウドサービスです。

働き方が多様化し、多くの企業でテレワークが導入される中、情報の漏洩を防ぐセキュリティ対策や、勤務時間の管理が課題となっています。これに対してテレワークサポーターは、キヤノン独自の顔認証技術を活用した本人識別を実現します。情報漏洩対策の観点から、勤務者以外の人物を検出した場合にPC画面をブラックアウトすることで情報の流出を防止することができます。顔だけでなく向けられたスマートフォンなどの撮影機器も検知することが可能で、PC画面の撮影による情報漏洩も防止します。

「お客さまからのご要望を反映してアップデートを重ねており、マスク着用時でも顔認証が可能で、暗所や逆光にも強く、Web会議と併用できるなど、幅広いテレワーク環境下でご利用いただけます」とキヤノンITS ならではの強みをアピールしました。

また、テレワーク環境では、従業員と上司の間でコミュニケーションが取りづらくなり、従業員の健康状態を把握しにくいという課題も出てきています。この点に対応するため、PC のWeb カメラを通じて顔画像を撮影し、AIを活用して微細な心拍変動を検出しストレスレベルを測定する技術や、表情分析から感情を読み取る技術を応用した製品の開発を進めています。

テレワークサポーター

4つ目の「作業者の動作分析」は、生産ラインにネットワークカメラを取り入れ、作業者の負担軽減や工場の効率向上を支援するソリューションです。作業の抜けや漏れを検知して通知すると共に、高精細カメラ(EOS)が自動で目視検査を代替することで、作業負荷軽減と品質向上の双方をサポートします。

ブースでは、製造組み立て現場を模したデモを行いました。ラインで行われた作業工程は完全に基準を満たしているのか、それとも不完全だったのか。また、その作業にどれくらいの時間を要したのかを判定するものです。従来のように検査担当者の目視に依存することなく、カメラで撮影した映像を基にシステムが自動で検査を行います。なお、工場から取得したデータはグラフィカルに可視化され、問題点の解決や過去の製造品質確認時のトレーサビリティーチェックにも活用することができます。

このソリューションは研究段階の技術出展のため、具体的なビジネス展開の予定はまだ固まっていませんが、キヤノンITSが映像DXでスマートファクトリーに貢献していくことを発信しました。

作業者の動作分析

5つ目の「イチゴ生育ソリューション」は、スマートフォンによる精度の高いイチゴの生育解析を実現します。カメラ画像から取得したイチゴの生育指標(花、果実の熟度、葉面積情報)と気象情報を基にAIが14日後の収穫量を予測します。「生産者は従来の経験や勘に頼った農業から脱却し、より“攻め”に転じた出荷計画を立てることが可能となり、販路拡大や収益性が期待できます」と強調しました。

イチゴ生育ソリューション

以上はCanon EXPO 2023における展示内容のほんの一部にすぎません。さまざまな産業領域にまたがる広範なソリューションを通じて、キヤノンは企業のイノベーション推進や、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを続けていきます。

Canon EXPO 2023の展示内容はオンラインでもご覧いただけます(12月26日まで公開)

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。