吉持 敦史

  • 認定スペシャリスト

DX、デジタル化が進む中でサプライチェーン改革に邁進

吉持 敦史

キヤノンITソリューションズ株式会社
ビジネスイノベーション推進センター
数理技術データサイエンス部
シニアコンサルティングスペシャリスト
吉持 敦史
Atsushi Yoshimochi

「巡回セールスマン問題」という超高性能コンピュータを使っても最適解が得られない数学の難問があります。これは1人のセールスマンが複数の顧客を巡回するのに、移動距離が最短となる経路を求める問題です。ここに、交通費を少なくしたい、顧客を訪問できる時間帯が決められているなど複数の条件が重なることで問題は一層難しくなります。サプライチェーン最適化は、さらに言語化できない条件や刻々変化する条件も加わり、それが幾重にも重なってできる超難問なのです。

数理最適化分野のスペシャリストである吉持敦史は、調達・生産から物流まで、いわゆるサプライチェーンプランニングにおいて高い専門性を持っています。吉持は「近年はコロナ禍をはじめとして、サプライチェーンにインパクトを与える要素が増えています」と、サプライチェーン最適化の困難さが増大する様相を呈していると指摘します。

子どものころから算数が好きだったという吉持は、「数学で人や社会に貢献したい」という思いから数理工学を専攻し、旧住友金属工業では数理技術を活用して製造や物流における意思決定課題の解決に携わりました。「例えば、1枚の鉄板をどのように切り分ければ無駄をなくせるかという、いわば“巨大なパズル解き”の意思決定について、無駄が最小になる自動パズル解きアルゴリズムを作るような仕事でした」といいます。その経験が後にサプライチェーンプランニングにも生かされるようになりました。これまでに関わった案件は数十件に上ります。

2022年にはビジネスイノベーション推進センターに数理技術データサイエンス部が発足し、数理のDNAは活躍の場を広げていきます。キヤノンITソリューションズの長期構想「VISION2025」が進む中、そこで掲げられている、業種・業界を横断する「サービス提供モデル」、システム最適化支援を軸とする「システムインテグレーションモデル」に加え、ビジネスイノベーション推進センターがめざす、お客さまとともに価値を創造する「ビジネス共創モデル」が、まさに「お客さまにとって千差万別のサプライチェーンプランニングに取り組む方向性と一致しています」と感じています。

DXが進展する中、吉持は「今でもExcelベースでサプライチェーン計画を立案している企業は少なくありません」と話します。デジタルテクノロジー活用が遅れ、しかも属人的な管理が横行しているため、「ビジネス環境の変化に柔軟に対応できないのが課題になっています」と指摘します。

サプライチェーンで困っているお客さまに知識と経験に基づく価値創造を提供

吉持は、「製造・物流領域で解決すべき課題をかかえる企業はいまだに多いですね」と話します。経済や社会の不確実性が高まる中、変化に対応するためにサプライチェーンの改革が不可欠になっている証拠です。新型コロナばかりでなく、自然災害やグローバルでの地域紛争などもその要因となっています。「このVUCAの時代、数理技術などの“手段”を駆使することは前提であり、“目的”すなわち何を最適にするのかが重要です。お客さまと密にディスカッションを行って課題を共有し、解決に向けた方針を共創し、その根拠を定量的に示すことが求められます」といいます。

* Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたもの。不確実性が高く、将来の予測が困難であることを示す造語

そのために「課題解決の仮説を立案し、実データに基づくシミュレーションによる概念検証(PoC)を実施し、結果をデータで示します。そうしてようやく実践の段階に進められます」と話します。「ある製造業のお客さまは、CITSの提案を採用し、サプライチェーン改革シミュレーション、独自アルゴリズムによる最適生産計画、実績データ解析・知見創出により、改革に取り組むための礎を築きました。この事例は社内でもベストプラクティスの一つであるとして表彰されました」(吉持)

吉持は、「環境の変化に柔軟に対応できるサプライチェーンを構築するには、昔からのやり方に固執せず、変化を見通して業務を見つめ直してほしいと思います」と話します。サプライチェーンは企業の動脈のような存在であり、経営の根幹に関わります。「そもそもサプライチェーン改革は、経営、管理、現場がベクトルを合わせて一体で進めるべきです。現場任せにしたがために改革はしたが元の業務に巻き戻ってしまう、といったことにならないようにすることが大切です」と、サプライチェーンに課題を持つ企業が陥りがちな問題を指摘しています。

国内企業のサプライチェーンは標準化が進む海外と異なり、企業単独や業界標準のような形で構築されている場合が多いといわれます。だからこそ吉持は、「まだやるべきことが多いですね。サプライチェーン改革で困っているお客さまに、私の知識や経験を展開して価値創造できる提案をしていきたい」と自信を示します。コンサルティングスペシャリストである吉持にとって、「これからもサプライチェーンのプランニングは私のメインフィールドであり続けます」と自負しています。