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DXを加速させる次なる一手

  • 特別企画①

ビジネス成長を支えるITの役割とDXへの道筋

(写真左)
株式会社マイナビ
TECH+編集長
星原 康一 氏
Koichi Hoshihara

(写真右)
キヤノンITソリューションズ株式会社
代表取締役社長
金澤 明
Akira Kanazawa

2022年10月6日~13日の平日5日間、オンラインイベント「キヤノンITソリューションズ共想共創フォーラム2022」が開催されました。フォーラムでは多彩なゲストやパートナー、お客さまをスピーカーとしてお招きし、最新の技術や知見が共有されました。開催初日の基調講演は、「DX加速に向け、今何をすべきか」と題し、キヤノンITソリューションズ代表取締役社長の金澤明と、マイナビTECH+編集長の星原康一氏による対談が行われました。その模様を採録してお届けします。(以下、敬称略)

コロナ禍と地政学リスク 不透明な時代のITの役割

星原 康一 氏

株式会社マイナビ
TECH+編集長
星原 康一 氏
Koichi Hoshihara

星原新型コロナウイルスについて、ビジネスや働き方への影響をどのように見ておられますか。

金澤働き方改革の進行とともにテレワークへの対応が進みましたが、この流れは今後も続くでしょう。新型コロナウイルスが自分自身の働き方や働く環境、自分のスキルと今の仕事について考えるきっかけになったという人も多いのではないでしょうか。

星原激しく変動する環境の中で、企業が課題を解決する、あるいは成長を持続するためにITの役割は大きいと思います。

金澤とりわけ切実な課題として、人材不足や社員の高齢化があります。ブラックボックス化した業務の可視化、自動化は、こうした課題への解決策になるでしょう。これは一例ですが、ITの貢献できる領域は広いと思います。

DXを進めたいが進まない3つのパターン

金澤 明

キヤノンITソリューションズ株式会社
代表取締役社長
金澤 明
Akira Kanazawa

星原ビジネス環境の変化と企業の課題について伺いましたが、そのような環境の中で、お客さまのDXの推進状況について伺います。

金澤経済産業省のレポートにもあるように、DXが進んでいる企業は、DXで何を実現したいかがはっきりしていて戦略的な活動をしています。一方、DXを進めたくても進められない企業もあります。こうした企業には3つのパターンがあると考えています。①IT基盤が確立されていない、②既存の基幹システムの制約がある、③DXで何を変えたいかが明確になっていない、という3つです。

星原それぞれのパターンの課題と解決アプローチについて、詳しく教えていただけますでしょうか。

金澤1つ目のパターンの場合、企業は業務効率化のためのシステムづくり、ビジネスプロセスのデジタル化、ITリテラシー向上などの取り組みを進めている途上にあります。既存プロセスやシステムの制約は比較的小さいはずなので、他社事例を参考にする、あるいはソリューションの活用などにより業務を改革することができるでしょう。DXを進めるためのパワーが足りない場合には、人材や予算などをDXに振り向ける経営の判断が求められると思います。

星原第1のパターンの企業はある意味で、伸びしろが大きいともいえそうです。

金澤そう思います。2つ目は既存の基幹システムの制約によって、データ活用基盤の構築が進まないといったパターンです。基幹システムの再構築が必要になることも多く、実際、そのためのプロジェクトとDXを並行して進めている企業は少なくありません。基幹システム再構築に伴い、既存プロセスの変更が必要になることもあります。

星原その場合、従来のしがらみを断ち切る意思決定ができるか。経営者のリーダーシップが問われそうです。次は、3つ目のパターンですね。

金澤DXを進めたいけれど、何を変えたいのかという目的があいまいなために、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施してもビジネスプロセスの検証にならず、技術的な検証になってしまう。その結果、ビジネス効果もはっきりしないので実行に踏み切れないというパターンです。経営層が「何を変えるのか」を明確にし、KPIをしっかり定めた上で改革を進める必要があると思います。

星原3つのパターンに共通する部分もありますか。

金澤すべてに共通するわけではありませんが、DXを改革と捉えていない経営者もおられます。多くの日本企業は業務を効率化するために、各現場の努力で個別業務プロセスの改善を進めてきました。それが組織全体のプロセス改善につながっていることもありますが、業務がタコツボ化して全体最適が失われてしまう場合も多く見受けられます。全社的な改革の視点が薄れると個別の業務プロセス改善に注意が向き、さらには部分最適化へと進むでしょう。DXを推進する際には、全体最適の視点を失わないよう注意が必要です。

個別業務を精緻化するほどシステムの維持は難しくなる

星原日本企業では、現場では自走的に改善活動が進むようなところがあります。

金澤自分の業務を少しでも改善したいという日本的な文化が関係しているかもしれません。ただ、個別業務を精緻化するほど、その業務システムの維持は難しくなり、やがてはプロセス改善にも対応できなくなります。従来の業務システムはできるだけ標準化して、維持運用の資源を極小化する必要があります。

星原DXに成功する事例としては、リソースに余裕のある大企業の方が多いのでしょうか。

金澤中小企業でもDX成功事例は少なくありません。DXの成否を決めるのは、危機感と改革への意識を会社全体で共有できるかどうかだと思います。

「DXで何を変えたいのか」明確なビジョンと目的が重要

星原先ほど「DXで何を変えたいかが明確になっていない」というお話がありました。この点について、具体例などを含めてもう少しお聞かせください。

金澤DXが進まない原因はDXを主導する人材の不足、費用対効果が分かりにくいなどさまざまですが、突き詰めればこの問題に行き着く場合が多いと思います。それはDXだけでなく、改革全般に言えることでしょう。経営層が「こんな会社にしたい」というビジョンを明確にすることが極めて重要です。DXの目的、その先にあるビジョンを考え抜き明確に示すことができれば、おのずと次のアクションが見えてくるはずです。例えば、顧客満足度の向上により売り上げを大きく伸ばしたいケースを考えてみましょう。顧客満足度を左右する要素として納品のリードタイムが重要との分析を踏まえて、現状では2日かかっている納期を、当日納品に変えるとします。そこから在庫の持ち方や配送の仕組み、物流拠点の配置の見直しなどのアクションが決まります。各業務プロセスの改善だけでなく、受注から納品までのプロセス全体の最適化に向けて全社的な取り組みが必要です。ここで大事なことは、KPIという数字への落とし込み。目標を数値化しなければ、それぞれの現場での活動はあいまいになりがちです。

星原「PoC疲れ」という言葉があるように、「PoCは実施するのだが、それが新規ビジネスや改革につながらない」という声もよく聞きます。

金澤その場合、PoCの考え方を疑ってみることも必要でしょう。DXは「D(デジタル)」と「X(トランスフォーメーション)」という2軸の掛け合わせです。活動の起点をトランスフォーメーションとするのが、本来の考え方ではないでしょうか。「デジタル技術で何かを変えよう」という意気込みは大切ですが、既存プロセスの置き換えにとどまっている場合が少なくありません。それでは技術的な適用可否は判断できても、経営判断による踏み込んだトランスフォーメーションの推進は難しい。プロセス変革の概念実証実験としてのPoCが、技術検証実験としてのPoT(Proof of Technology)に変質していないか。ここは注意すべきポイントだと思います。

星原これまでの議論を踏まえて、金澤社長はDXに向けた「次の一手」として何が必要だとお考えですか。

金澤明確なビジョンと思い切ったヒトとカネの投資、経営者の覚悟。これらはさまざまな改革においてよく指摘されることですが、DXも同様でしょう。ただ、ヒトやモノに余力のある企業は多いとは言えず、できるだけ投資を抑えたいのが経営者の本音です。だからこそ、短期的な業績に惑わされないためにも、明確なビジョンを高く掲げる必要がありますし、経営者は腹をくくって投資を進めなければなりません。経営者が覚悟をもって改革の先頭に立たなければ、現場の活動は表面的なものになるでしょう。

星原その際、経営者には具体的にどのようなことが求められるでしょうか。

金澤KPIの重要性に触れましたが、DX活動に参加する関係者がKPIを共有すれば、KPI達成に向けた各部門の活動は組織横断的に連動するようになります。ただ、KPIの設定は簡単ではありません。高い目標を設定して既存の考え方を壊すような改革をめざすのか、頑張ればできそうなレベルのKPIを設定するのか。このあたりは、企業のカルチャーや経営者の考え方にも影響されるように思います。どちらがいいのか、一概にはいえません。付け加えるとすれば、一点突破で攻めることです。

星原リソースを分散させると、どの取り組みも中途半端になりがちですからね。

金澤特に、複数の組織をまたがった改革活動は複雑で、なかなか進みにくいものです。そうした改革プロジェクトを並行して数多く走らせるのは極めて難易度が高い。経営者としては大きな成果が欲しいとしても、我慢が必要なこともあります。あれもこれもと手を付けるのは考えものでしょう。一点突破の重要性は、KPIについてもいえることです。納期短縮活動でいえば、活動によって在庫やコストなど他のKPIが悪化する可能性はありますが、まずは重要度の高いKPIである納期の達成を優先させるべきです。これには賛否両論あるかもしれませんが、基本的にKPIは1つに集中させ、その達成をめざすことでDXに駆動力を与えることができると私は考えています。

星原一点突破は重要なキーワードですね。

金澤自戒を込めて言いますが、多くの経営者は欲張りです。考え抜いたDXのプランが極めて有望だと思えば、社内やグループ会社で横展開して果実を拡大したくなるのも自然でしょう。しかし、横展開を実行する際の負荷は大きくなり、現場の混乱を招く可能性もあります。
企業のビジネス特性、各部門の置かれた基礎的な環境はそれぞれ異なります。そうした個別要因によって、改革活動が複雑化したり、推進スピードが遅くなったりすることはよくあります。このような事情を踏まえた上で、経営者は改革活動の優先度を判断しなければなりません。

3つの事業モデルでお客さまに伴走し支援する

星原今回のお話を通じて、DXのポイントが整理され、具体的なイメージを描けたように思います。キヤノンITソリューションズは、どのような形で顧客企業のDXをサポートしているのでしょうか。

金澤私たちは2025年を見据えた長期ビジョン「VISION2025」を策定し、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く“共想共創カンパニー”」をキーメッセージとしてビジネス活動を進めています。DXのパートナーとしてお客さまのビジネスゴールを共有し、課題解決に伴走しつつお客さまの事業変革をお手伝いする。言い換えれば、お客さまが何をやりたいのか、何を変えたいのかを共に考え、お客さまの想いを起点にお客さまのビジネスを共に創り上げていく。これが“共想共創カンパニー”のイメージです。

星原具体的な事業の中身を教えてください。

金澤「ビジネス共創モデル」「サービス提供モデル」「システムインテグレーションモデル」という3事業モデルがあります。まず、DX活動の起点となるのがビジネス共創モデルです。お客さまの事業戦略や業界動向を深く理解した上で、DX戦略やITグランドデザインの策定に伴走します。また、データドリブンによるビジネス課題の解決、ビジネスプロセスの最適化もサポートします。DX戦略を定めたら、サービス提供モデルやシステムインテグレーションモデルにバトンが渡されます。サービス提供モデルでは業界や業務に共通するITサービスを提供し、お客さまがコア業務に集中するための環境づくりをお手伝いします。そして、システムインテグレーションモデルでは、経営戦略と連動したシステムの価値を継続的に高め、お客さまの競争力強化を支えます。

星原「共想共創」という言葉に、DXパートナーとしての本質が表現されているように思います。旧来のSIerは「言われたものをつくって終わり」と見られることもありました。そうではなく、顧客のビジネス発展を共に考え、伴走しつつ支援するということですね。

金澤より強力な支援を行うためには、テクノロジーを磨き続ける努力も欠かせません。例えば、製造業や小売業の現場におけるAIの活用。工場のラインでの目視検査をAIによる自動検査に置き換える、あるいはAIを用いてサイネージの広告効果を高める取り組みなどがあります。また、柔軟で強靭なサプライチェーンの構築をめざす企業の間では、AIによる需要予測の高度化への期待が高まっています。当社は需要予測の領域で長年ノウハウを積み重ねてきましたが、AIの活用には大きな可能性を感じています。このほかにも、幅広い分野においてAIの実用化を推進しています。

星原さまざまな課題を解決する上で、AIの活用は今後の重要なテーマになりそうです。ところで、DXを加速するためにITの内製化を進めている企業も目立ちます。内製化に関しては、どのようなサポートを行っているのでしょうか。

金澤私たちも内製化の動きを実感しています。その際、重要になるのがノーコード開発やローコード開発で、できるだけ少ないプログラミング量で開発するための手法です。当社はローコード開発プラットフォーム「WebPerformer」を提供しており、開発環境の面からお客さまの内製化を支援しています。そして、開発環境の質を継続的に高めることで、お客さまの内製化をより強力にサポートしていきたいと考えています。また、内製開発で一般的なアジャイル開発についても、そのための環境づくりや開発プロセス全体のコンサルティング支援などを行っています。最近は「プロセス志向のアジャイル型ソリューション」として、業務プロセスの可視化とローコード開発を組み合わせて内製化を支援するケースも増えています。

星原ITの内製化が進むと、「自分たちの出番が減る」と考えているITベンダーもいるかもしれません。

金澤特定の既存領域の仕事は減るかもしれませんが、お客さまのビジネスが成長すれば私たちが貢献できる分野はより広がります。お客さまのチャレンジに伴走して一緒に悩んだり議論したりしながら、共に学びつつ、お客さまの新たな価値づくりを支えたい。そして、お客さまと一緒に私たちも成長したいと願っています。そんな気持ちをシンプルに表現したキーワードが「共想共創」なのです。

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。

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