新時代のローコード開発

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「WebPerformer-NX」──
クラウドプラットフォームが提供する開発・実行環境

環境変化への迅速かつ柔軟な対応を行うべく多くの企業がDX推進を掲げ、業務のデジタル化に取組んでいます。デジタル化を担う開発現場の役割はますます高まっています。キヤノンITソリューションズは、2005年にローコード開発プラットフォーム「WebPerformer」の提供を開始。2023年早々に、企業のDX推進に貢献する自由度の高いフロントシステム開発を特長とした新しいローコード開発「WebPerformer-NX」を、クラウドプラットフォームサービスとしてリリースします。

事業部門とIT部門との共創によるデジタル化への取り組みが重要

松本 一弥

キヤノンITソリューションズ株式会社
執行役員
デジタルビジネス統括本部
統括本部長
松本 一弥
Kazuya Matsumoto

今、多くの企業がDXに向けた動きを加速しています。経営方針の大きな柱に、DXを位置づけている企業も少なくありません。現場を鼓舞する経営者からのメッセージも、以前より熱を帯びてきたのではないでしょうか。

キヤノンITソリューションズの執行役員でデジタルビジネス統括本部 統括本部長の松本一弥は「VUCAの時代になり、各企業は競争力を高めるためにDXを加速させたいと考えています。特に、ビジネスをデジタル対応し収益に変えることを目的としたIT投資も拡大しています」と指摘します。

DX推進に向けて各企業の内製化への取り組みが高まっている一方で、IT部門のデジタル人材確保にも限界があります。DX推進部門を設置した企業、事業部内でDXに取り組む企業でも事情は同じでしょう。潤沢な予算を準備できたとしても、開発を担う人材を大幅に増員するのは難しい。デジタル人材不足は、今や日本全体の課題と言っても過言ではありません。

「多くの企業では事業部門からIT部門に対して、『デジタルでこんなことをやりたい』という要望が多数寄せられていると思います。しかし、IT部門には基幹システムなど既存システムの運用管理という重要な業務もあるので、現場からの新たなニーズに応じるだけの余力があまり残っていません。新たなニーズを聞いてもほとんど対応できない、と悩んでいるIT部門もあるのではないでしょうか」と語るのは、キヤノンITソリューションズ デジタルビジネス統括本部 デジタルビジネス営業本部 デジタルビジネス企画部 部長の高橋嘉文です。

課題解決の方策はいくつか考えられますが、開発の省力化は極めて重要なテーマです。そこで注目されているのが、ノーコード開発やローコード開発などの手法。プログラミングの工数を減らすことで生産性と品質を高め、かつコストを低減させるアプローチです。

キヤノンITソリューションズは2005年、Webアプリケーション自動生成ツール「WebPerformer」をリリースし、日本市場におけるローコード開発プラットフォームの先駆けとしてすでに1327社への導入実績(2022年7月現在)があり、多くのお客さまにご好評いただいています。

ノーコード、ローコード、スクラッチ開発の特性

高橋 嘉文

キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルビジネス統括本部
デジタルビジネス営業本部
デジタルビジネス企画部 部長
高橋 嘉文
Yoshifumi Takahashi

一般に、開発手法にはノーコード開発、ローコード開発、一からプログラミングを行うスクラッチ開発があり、それぞれ開発方法には特性があります。

ノーコード開発ではプログラミングのスキルは不要。UIとロジックともにプログラムコードを作成する必要はなく、開発ツールの提供機能を組み合わせて開発します。個人や部門に特化した業務のデジタル化には適していますが、自社固有の複雑なビジネスロジックを組み込む場合など機能拡張が難しい面も出てきます。また、事業部門主体でのシステム導入を進めると、ITガバナンスの観点でのリスク懸念もあります。

ローコード開発では、UIはノーコードでデザインし、業務固有の複雑なビジネスロジックについては少ないコードで開発することが可能です。部門間、企業間にまたがる業務プロセスをデジタル化することもでき、将来の機能追加などを想定した拡張性も備えています。

そして、スクラッチ開発。今でも広く行われている開発手法であり、自由度や拡張性も高いのですが、生産性や品質は個々人のスキルへの依存度が高くなります。DXの加速というビジネス変化に対し俊敏な対応を求めるには、エンジニアの増員なども考える必要があるでしょう。

このように開発方法にはそれぞれの特性があります。ITガバナンスの下、IT部門が関与し将来的な拡張性も視野に入れたローコード開発が、DX推進に向けたエンタープライズ領域や企業間取引などにおいて俊敏なデジタル化に適していると考えます。

以上のようなメリットとデメリットを踏まえた上で、それぞれの企業が業務のデジタル化に最適な開発手法を選ぶ必要があります。Aシステムはスクラッチで、Bシステムはローコード、Cシステムはノーコードで開発するというように、開発手法を使い分けている企業も少なくありません。

その中で、当社はローコード開発の将来性に注目し、この分野に注力してきました。

「現行のWebPerformerは、特に基幹系とその周辺のSoR領域のシステム開発で多く適用されています。企業の中核となるこの領域のシステム改修や再構築は今後も必要不可欠であり、開発現場の生産性向上を図る上で、WebPerformerが役立つ場面はこれからも多いと考えています」(高橋)

一方で、冒頭で触れたように、DXのニーズが高まっています。DXではSoEを中心とした新たなアプリケーション開発が多くなると考えます。例えば、PCやタブレット、スマートフォンを用いて業務を変革するアプリケーション、あるいは取引先等との顧客接点業務を変革するアプリケーションなどが求められています。

キヤノンITソリューションズはDX領域を支援するローコード開発プラットフォームとして、「WebPerformer-NX」を2023年1月にリリースし、新たなラインアップに加えます。このWebPerformer-NXには、業務プロセスのデジタル化に不可欠なワークフロー機能も標準装備されます。

開発しやすさにこだわり手間を省き時間短縮を実現する

ローコードおよびノーコードの開発プラットフォームの市場は拡大しています(図1)。今後はaPaaS(Application Platform as a Service)の急成長が予測されています。

aPaaSはアプリケーション開発および実行環境を提供するクラウドサービス。このカテゴリーに含まれるWebPerformer-NXも、クラウドサービスとして提供されます。キヤノンITソリューションズ デジタルビジネス統括本部 デジタルプラットフォーム開発本部 本部長の金子雄貴はこう説明します。

「近年、開発者を取り巻く状況は厳しさを増しています。テクノロジーの急速な進化にキャッチアップするだけでも大変ですが、同時にスピード開発が求められています。こうした中で、導入する開発ツールのためだけに、新しいことを覚えるのは避けたいもの。また、できるだけ直観的な操作で簡単に使いこなしたいと考えているはずです。こうした開発現場のニーズを踏まえて、WebPerformer-NXは開発されました」

開発しやすさを追求したWebPerformer-NXは、大きく3つの特長を備えています。

1つ目の特長は、デザイン性の高いアプリケーション開発が容易なこと。そのために、UI部品群を豊富にそろえており、直感的に操作可能な開発エディタを搭載しています。最近広く使われている単一ページSPA(Single Page Application)の開発にも対応し、ユーザー体験を高めるUIづくりをサポートします。

また、データベースと切り離したUI開発を実現します。従来はデータベース設計を元に画面を高速開発する方法をとってきました。しかし、複雑な画面デザインが要求される場合、データベース設計の制約を受けてしまうこともあります。WebPerformer-NXでは、データベース設計とUI開発を切り離すことで、画面や遷移を設計したあとに自動でデータテーブルを作成することもでき、画面デザインの自由度が高まるとともに、開発のスピードアップにもつながるでしょう。

2つ目の特長は、自動生成を基本機能として搭載した上で、業務固有で複雑なビジネスロジックを組み込み可能なこと。ビジネスロジックの開発においては、独自言語ではなく、多くのエンジニアになじみのあるJavaScriptを採用しました。エンジニアの方が習得しているスキルをそのまま生かしてWebPerformer-NXを利用していただくことができます。

3つ目の特長として、クラウドネイティブなアプリケーション開発が可能であることと、セキュアなクラウド実行環境へ瞬時にデプロイ可能なことが挙げられます。開発したアプリケーションは、すぐに動作を確認することができます。こうした環境は開発のスピードアップだけでなく、DXにはつきものの改善とイノベーションのサイクルを促進することでしょう。開発ツールのインストールなど、環境構築のための作業は不要です。迅速なプロジェクトの立ち上げが可能で、開発者はブラウザーさえあれば仕事を進めることができます。

「WebPerformer-NXは開発環境の準備など手間のかかる作業から開発者を解放するとともに、UI部品群などさまざまな機能によって開発の生産性向上をサポート。同時に、開発品質の向上にも寄与します。結果として、開発者はより付加価値の高い業務にフォーカスすることができます」と金子は話します。

図1 ローコード/ノーコードプラットフォームソリューションの市場予測

図1 ローコード/ノーコードプラットフォームソリューションの市場予測

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カスタマーサクセス部門と技術推進ラボを新設

金子 雄貴

キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルビジネス統括本部
デジタルプラットフォーム開発本部
本部長
金子 雄貴
Yuki Kaneko

自由度の高いアプリケーションのスピーディーな開発・リリースを支え、DXの加速に貢献するWebPerformer-NXは直観的な操作性に優れ、チュートリアルなどのコンテンツも充実させてまいります。例えば、試しにアプリケーションをつくってみたら、いつの間にか習熟したという形をめざしています。「ポイントは、開発者にとって直感的で分かりやすい開発環境、素早く開発と運用を立ち上げられるカスタマーサクセスの推進です。変化の激しい時代だからこそ、アジャイルにふさわしい製品にしてまいります」(松本)

また、開発者をサポートするために従来のカスタマーサポート部門に加え、カスタマーサクセス部門を新設し、開発現場での導入から活用定着を支援します。お客さまの活用状況を分析した上で当社側から働きかける積極的なサポート体制を構築。お客さまの活用度を高め、より一層の価値提供を図ります。

新設組織はもう1つあります。それが技術推進ラボ。お客さまやパートナー向けに各種技術支援、トレーニングサービスなどを提供するチームです。

また、WebPerformer-NXは多くのパートナーを通じてお客さまに提供していきます。

「できるだけ多くのお客さまにWebPerformer-NXのよさ、DXを推進する上での有効性を知っていただくため、さらには実際にお客さまが価値を創造するために、パートナーの役割は非常に重要です。当社としてはパートナーとの関係をさらに深めるとともに、広げていきたいと考えています。」と高橋は語ります。

また、開発者がWebPerformer-NXに触れる機会も増やします。それが、無料で開発に活用できる「フリーエディション」です。当社はできるだけ多くの開発者に、その機能や使い勝手を体感してもらいたいと考えています。Webからのお申し込みですぐにWebPerformer-NXを体験していただくことが可能です。

現在、DXのスピードアップをめざして、企業が開発を内製化する動きも目立ちます。WebPerformer-NXは、こうした方向性にも合致するソリューションです。前述のように、開発環境の準備など面倒な作業は不要で、さまざまな機能で開発効率を高めることができる。内製化をめざす上でも、WebPerformer-NXは大きな役割を担うことでしょう。

最初のバージョンがリリースされる2023年1月以降にも、WebPerformer-NXはフロントエンド開発・実行のプラットフォームとして進化を続けます。その方向性は2つのキーワードで示されています。「つながる」と「創る」です。

基幹系システムやクラウドなどの既存システム、さまざまな外部サービスとつながるアプリケーションの開発と全体最適に資するシステム、およびエコシステムの安定した運用を支える。同時に、開発プラットフォームとしての利便性をさらに高めて、企業のDXと価値創造を支援する。近い将来には、AIによる開発支援、一層の自動化なども視野に入れています。

WebPerformerとWebPerformer-NXというローコード開発の2本柱を軸に、キヤノンITソリューションズはお客さまの開発現場を強力に支えていきたいと考えています。

図2 WebPerformer-NXとWebPerformerの領域

図2 WebPerformer-NXとWebPerformerの領域

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※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。