稲山 一幸

  • 認定スペシャリスト

放射線を学んだことから画像処理の世界へ

稲山 一幸

キヤノンITソリューションズ株式会社
製造ソリューション事業部
エンジニアリング第二技術本部
IoT技術部
IoT技術第一課
課長
稲山 一幸
Kazuyuki Ineyama

認定スペシャリストである稲山一幸は製造業向けに「エンジニアリングDX」を提供する部門に所属し、現場の自動化や無人化を実現するためのマシンビジョンを中心としたイメージング技術と各種センサー情報をもとに設備の監視制御・自動化を行うファクトリーオートメーション技術の2つのIoT領域のチームを率いています。

大阪大学医学部卒という異色の経歴を持つ稲山が今の分野のスペシャリストになったきっかけは、放射線を専攻してレントゲン画像の世界に触れたことでした。「大学のゼミでは医療系の画像処理を研究していましたが追求していくうちに、画像処理を極めたいと考えるようになり、ゼミの教授に相談したところ、教授と社長が知り合いだった縁により住金制御エンジニアリングを紹介され、医療の世界から、一般企業の世界に飛び込むことになりました」と稲山は語ります。

稲山が入社した1992年当時、同社の親会社である住友金属工業(現・日本製鉄)ではカメラを使った外観検査システムの開発に取り組んでいました。画像処理に携わりたいと希望していた稲山は新入社員として入社直後そのまま住友金属工業に出向して開発チームに加わります。そこで出合ったのが、今もキヤノンITソリューションズで提供しているカナダMatrox(現:Zebra)の製品でした。

「カメラ画像入力ボードと画像処理ソフトウェアから構成された製品で、当時から世界最高速のマシンビジョンシステムに必要な機能を持っていました」と話す稲山は、日本とカナダを行き来しながら最先端のプログラミング技術を身に付け、画像センシング技術のスペシャリストへと成長していきました。

「Matroxの国内総代理店となってからは、住友金属工業だけでなく、社外にもソリューションを提供するようになりました」と稲山は話します。3年後の1995年にはこの事業が住金制御エンジニアリングに移管されて稲山も出向から戻り、2003年にキヤノンシステムソリューションズに変わり、今に至っています。

2000年頃からマシンビジョンの普及のために精力的に講演活動をしたり、専門誌に論文を寄稿したりするようになりました。「それ以来、対外的な活動はずっと続けています」と稲山は話します。2007年からはキヤノン R&D本部の新規事業タスクフォースに加わり、2013年からはキヤノンで本格的なマシンビジョン製品の開発が始まり、3年間、本ソフトウェアの開発リーダーを務めました。ここで実感したのは、マシンビジョンをビジネスにしていく難しさでした。「製品化のためには、機能だけでなく市場性も追求されました」と稲山は当時を振り返ります。

画像イメージング技術が自動化・無人化の中心になる

稲山は2018年10月よりキヤノンITソリューションズのコーポレートサイトにてコラムを連載しています。「マシンビジョンの適用領域が無限に広がっていき、連載コラム記事のネタが尽きない永遠に続いていくジャンルです」と話します。

コラムでは、自社が扱う製品にこだわらずに新しい技術やその活用シーンについて取り上げています。実際にコンサルティングやソリューション開発では他社とコラボレーションすることも多く、さまざまな技術の組み合わせでソリューションが作られていきます。

「現場の自動化・無人化のためには、人の代替化が必要で、見ているものをカメラで映像化して、AI技術で映像の分析を行い、何であるかを認識します。また無人搬送車にカメラを搭載し自由に走行させたり、ロボットを制御したりします。そこでは映像送受信に5Gなど高速な無線化技術も使われています」と稲山は他社とのコラボレーションの実例を挙げます。

現在増えているのは、カメラの見ている位置を認識しながらAI機能で認識、識別していくことです。
カメラ自体の位置を推定する技術は、VSLAM(Visual Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれ、VSLAM専用のカメラでは、周囲の風景を撮像しながら、特徴点を抽出し、今どの位置にあるかをリアルタイムに計算します。例えば、工場内で白や黄などのラインマークを必要とするAGV(無人搬送車)に対しては、自由走行が可能となり、レイアウトやルートの変更に柔軟に対応できるようになります。人が操縦するフォークリフトやエレカなどの自由走行車に対しては、現場のどこを走行しているかを把握するために利用されています。デバイスとしては、VSLAMカメラにAIプロセッサを搭載したVSLAM対応のAIスマートカメラが登場しており、カメラの位置と向きに加え、撮像したものの認識や分類まで行えるようになってきました。例えば、工場施設や物流倉庫に対しては、自由走行可能なAGVに、現場のメータやバーコードなどを認識できるAIスマートカメラや、熱感知するサーモカメラなどを搭載することで巡視点検の自動化が進められています。さらに、AGVにカメラを搭載したロボットアームを取り付けることで、巡視点検により異常を感知した場合、速やかにロボットアームで作業を行う、作業の代替化への取り組みも開始しています。また、建築現場や屋外など、通路が平坦でなく、障害物が多い現場、に対しては、ロボット犬やドローンを利用した事例も増えてきています。

「今注目しているのはこうしたクロスインダストリー領域です。人に代わってサービスを提供するサービスロボットの市場規模は4兆円、物流業界では40兆円といわれています。イメージング技術がDXの中心になるのではないでしょうか」と稲山は語ります。

カメラを使って何かできないかと考える上では運用イメージが重要です。後からだと実装の壁に突き当たります。「逆に運用イメージさえあれば、それを実現する最適な対応を支援できる自信があります。お気軽にご相談ください」と稲山は語ります。イメージング技術の可能性は無限に広がっているのです。