攻めと守りの金融ソリューション

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技術とノウハウが生み出す新たな価値

激しい環境変化の中で、多くの金融機関が新たなビジネスやサービスの創出に取り組んでいます。金融DXは加速しつつあります。キヤノンITソリューションズは長年、金融機関の中核システムの構築をサポートしてきました。既存の業務やシステムにおける経験と理解を生かしつつ、DXに向けた取り組みに伴走しています。テクノロジーありきではなく、ビジネスゴールを見据えた提案力をこれからも磨いていく考えです。

金融機関を取り巻く環境変化と新たなチャレンジへの動き

齊官 厳雄

キヤノンITソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業部
金融ソリューション第一開発本部
本部長
齊官 厳雄
Yoshio Saikan

金融業界は今、大きな環境変化の中にあります。長らく超低金利が続く中で、従来のビジネスモデルの収益性は低下しています。また、パンデミックの影響もあり、オンライン化やキャッシュレス化の動きが加速しています。一方で、スマホを活用したサービスが次々に立ち上がっています。こうした新サービスを可能にするテクノロジーの進化も見逃せません。

激しい環境変化に対応するため、既存の金融機関は新たな施策への取り組みを強化しています。もちろん、既存ビジネスの継続がその前提です。変化する金融規制に適切に対処しつつ、これまでの顧客に継続的にサービスを提供しなければなりません。金融機関は「守り」と「攻め」の最適なバランスを見極めつつ、新しい時代に対応しようとしています。

キヤノンITソリューションズの金融ソリューション事業部もまた、同じ環境変化に向き合っています。当社は20年以上にわたって、金融機関向けソリューションを提供してきました。

「銀行向けには市場系やカストディー、リスク管理のシステム開発などで、多くの経験を積んできました」と、キヤノンITソリューションズ金融ソリューション事業部金融ソリューション第一開発本部本部長の齊官厳雄は話します。また、証券や保険、クレジットカード、リースなどの分野でも実績を残してきました(図1)。当社は幅広い金融分野において、中核的な業務アプリケーションを中心にノウハウを蓄積しています。

このような経験は、新たなビジネスモデルやサービスの創出においても生かされています。

「金融ソリューション事業部において、システムインテグレーションは長年の主力事業です。それは今も大きな比重を占めていますが、それだけでは新しい時代に対応することはできません。長年培った経験や技術をベースに、お客さまと協力しながらチャレンジを続けてきました」と語るのは、キヤノンITソリューションズ金融ソリューション事業部金融ソリューション営業本部本部長の小塚剛史です。

ただ、新技術を活用するにしても、地に足の着いた取り組みを大事にしています。キヤノンITソリューションズ金融ソリューション事業部金融ソリューション第二開発本部本部長の五月女基史はこう説明します。

「ここ数年、フィンテックやDXという言葉が盛んに語られてきました。確かに、新しいサービスやビジネスを創出する上でテクノロジーは重要な役割を担いますし、私たちとしても新技術への対応や準備に注力してきました。ただ、テクノロジーだけでお客さまの価値を創出するのは難しい。新サービスを生み出すためには多くの場合、既存システムとの連携、既存業務への深い理解が求められます。そこに、私たちの強みがあると考えています」

図1 豊富な中核業務アプリケーション開発経験

図1 豊富な中核業務アプリケーション開発経験

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保険料支払いの迅速化で社会課題の解決に貢献

小塚 剛史

キヤノンITソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業部
金融ソリューション営業本部
本部長
小塚 剛史
Takeshi Kozuka

キヤノンITソリューションズの金融分野での取り組みには大きく2つの柱があります。

第1に、既存事業の安心・安全を支えるシステムの構築です。そのためには変化する環境に対応しつつ、さまざまな改修や拡張も必要になります。社会インフラとしての金融システムの信頼性を守るためには、日々の地道な取り組みが欠かせません。

第2に、既存の業務やシステムにおける経験や知見をもとに、新たなサービスの企画・設計・開発をサポートしています。例えば、収集したデータを有効活用して、新たなサービスを立ち上げる。あるいは、スマホアプリを開発してユーザーの利便性を高めるといったケースもあります。

「既存システムの維持・拡充とDXの推進、これらの両方を手掛けています。それぞれの分野を得意とするエンジニアがチームになって、1つのプロジェクトに携わることもあります。新サービスを開発するために既存業務の知識が必要となるケースは多いですからね」と小塚は話します。

2008年のリーマンショック後、金融当局による規制強化が進み、金融機関では規制対応のためのIT投資がかなりの割合を占めました。それは一種の守りの施策といえるでしょう。一方、DXは典型的な攻めの施策です。キヤノンITソリューションズは守りと攻め、両方の分野でお客さまをサポートしています(図2)。そのために、幅広いテクノロジーの研究開発も進めています。

守りと攻めの最適なバランスは個々の金融機関によって異なります。ただ、最近は守りから攻めにシフトする金融機関が増えつつあるようです。攻めの施策には試行錯誤はつきものでしょう。当社もお客さまとともにチャレンジし、試行錯誤を経験しながら新しい価値創出を支えています。

新サービス創出の一例が、キヤノンマーケティングジャパンと当社が損保会社と共同で開発した「立会最適マッチングシステム」。グループの総合力が生かされたプロジェクトといえるでしょう。

近年、地震や水害などの自然災害が相次いでいますが、大規模災害発生時には、損保会社に契約者から支払いを求める連絡が殺到します。「被害報告の受付、損害状況の確認、保険金の支払い」というプロセスの迅速化は大きな課題。それは契約者にとって切実な問題であるとともに、損保会社の社会的責任、デジタルによる社会課題解決という観点でも重要なテーマです。

一連のプロセスをスピードアップする上で、ボトルネックになりがちなのが立会調査による「損害状況の確認」です。同システムはアポイント管理とともに、立会担当者と対象物件のスキルマッチング、立会計画を自動化・最適化し立会調査対応を効率化します。また、現地までのルートを最適化することで、1日当たりの立会調査件数の増加をもたらしました。一方の契約者は、スマホなどを用いて立会予約を簡単に行うことができます。

「このシステムにはさまざまな技術が用いられていますが、主要な要素の1つが当社の得意とする数理技術です。数理技術を活用した当社ソリューション『RouteCreator』は配送計画の自動化などの分野でも高い評価を得ていますが、その技術は立会最適マッチングシステムにも生かされています」(齊官)

図2 金融ソリューション事業の概要

図2 金融ソリューション事業の概要

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金融DXが本格化するリテール、データ活用にも注力

もう1つの事例として、ネット証券会社向けに開発したスマホで使える「株取引アプリ」があります。スマホ向けのアプリではスピード感が重要。頻繁かつ不定期にアップデートされるOSに対し、アプリも速やかに対応しなければなりません。特に株取引アプリでは、取引時間中のサービス停止は許されないだけに責任は重大です。

一方、SNSやアプリストアのレビュー(星の数)により、ユーザーの評価が可視化されるのもこうしたサービスの特性といえるでしょう。エンジニアにとっては、気づきや刺激を得ながら成長する機会にもなっています。

以上のようなプロジェクトを通じて、キヤノンITソリューションズはリテール分野のノウハウを蓄積してきました。そこには、UI/UXなどの知見も含まれます。

リテールとデータ活用は、当社の重要な注力領域です。データ活用について小塚は「データ活用のための新システムを開発する際には多くの場合、既存システムに格納されたデータを取り出し、活用するためのデータマートが必要とされます。データマートをスムーズに構築するためには、既存のシステムと業務に関する理解が欠かせません」と説明します。既存システムで培った経験を生かすことで、当社はビジネス目的に沿ったデータ活用の仕組みを効率的に開発することができます。

既存システムにおける経験は、銀・証連携のシステム開発などでも生かされています。銀行側のデータを証券サービスで活用する、あるいはその逆もあります。例えば、銀行口座と証券口座を連携させ、銀行口座の残高に応じて株式の購入ができる仕組みなどです。こうしたプロジェクトでは、業務要件やセキュリティ要件などの理解は不可欠です。

近年、金融機関と小売業などの異業種が連携するBaaS(Banking as a Service)の動きも本格化しつつあります。キヤノンITソリューションズは、そのために欠かせないAPI基盤の構築などでも役割を担いたいと考えており、準備を整えてきました。

出向や派遣を通じて上流分野を強化し潜在ニーズに対応する

五月女 基史

キヤノンITソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業部
金融ソリューション第二開発本部
本部長
五月女 基史
Motofumi Sotome

今、金融機関はデジタル活用に向けた取り組みを加速しており、各社の内部ではさまざまなチャレンジが同時並行で進んでいます。ウォーターフォール型のプロジェクトもあれば、試行錯誤を前提とするアジャイル型のプロジェクトもあります。

キヤノンITソリューションズでは、こうしたプロジェクトに企画段階から参画するケースが増えています。上流に注力することで、より深くお客さまのニーズを捉えようとしているのです。

例えば、出向や派遣などの形で金融機関のIT部門、あるいはDX推進部門などに社員を送り出し、市場分析や課題抽出からプロジェクトの実施に至るプロセスをサポートする機会も増えています。プロジェクトがスタートしてからは、PMOの一員としてチーム全体の調整などの役割を担うこともあります。

こうした活動は、お客さまから高く評価されています。今、多くの産業分野においてDXの本格化の動きを受けIT人材が不足しており、金融機関も例外ではありません。そこで、お客さまから人材の出向や派遣などを求められるケースが増えているのです。

「お客さまのチームのメンバーに加わることで、外部環境の変化や困りごとなどを肌感覚で理解することができます。本人にとっては、ユーザー企業の立場で物事を考える絶好の機会になるでしょう。社員教育という観点でも効果があると思っています」(小塚)

また、当社では数年前から、人材育成のペースを速めています。プログラマーからSEを経てプロジェクトマネージャになるまでに、従来は10年程度を要していました。最近はスキルトレーニングなどを工夫することで、20代のうちにプロジェクトマネージャを担う社員も生まれています。

「若い感性を持つプロジェクトマネージャがお客さまに直接関わって仕事をすることで、新鮮な気づきを得ることができるのではないかと思います。特に比較的小さな規模のプロジェクトでは、積極的に若手を起用しています」(五月女)

人材の質を高めるとともに層を厚くすることで、金融機関の困りごとに対応するだけでなく、潜在的なニーズを掘り起こし、お客さまに先んじて提案する力を磨いていきたいと五月女は意気込みを語ります。

「研究開発部門を中心に、当社は新しいテクノロジーを活用する準備を進めてきました。コンテナ、マイクロサービス、クラウドネイティブなどの技術です。ただ、技術ありきの提案をするつもりはありません。あくまでも、潜在ニーズを含めたお客さまのやりたいこと、ビジネスゴールが先にあり、そのためにITをどう活用するかをお客さまとともに考え実行する。それが私たちのスタイルです」

キヤノンITソリューションズは既存システムに置いた足場を固めつつ、お客さまとともに新サービス創出などに取り組んでいきます。

「単なる現状維持ではなく、実現性を見極めた上で高い目標を掲げ、地に足の着いた提案をしていきたいですね」と五月女。続けて、小塚は「既存業務と新技術、両方にまたがる知見を生かし、DXの伴走者としてお客さまと一緒に汗を流したいと思っています」と語ります。

金融サービスの信頼を確保しつつ、その利便性が向上することにより社会はより豊かなものになるでしょう。例えば、オンラインサービスが過疎の村の暮らしを変えるかもしれません。キャッシュレスサービスで課題を解決する商店主もいるでしょう。キヤノンITソリューションズは金融DXの先にある社会を描き、社会課題の解決を考えながら、着実に歩みを進めようとしています。

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。