淺田 克暢

  • 認定スペシャリスト

需給管理の問題を数学で解決する

淺田 克暢

キヤノンITソリューションズ株式会社
デジタルイノベーション事業部門
数理技術コンサルティング部
コンサルティングプロフェッショナル
中小企業診断士
淺田 克暢
Katsunobu Asada

淺田が所属する数理技術コンサルティング部は、需給計画システムの導入コンサルティングを主な業務とする部署で、現在9人のメンバーが在籍しています。数理技術は生産計画や物流の最適化などリアルなビジネスでの課題を、数学を駆使して解決する技術で、需給管理はその適用分野の一つと位置付けられます。

淺田は1998年から需給管理業務に関わってきました。メインの業務はキヤノンITソリューションズの需要予測・需給計画ソリューション「FOREMAST」の導入に伴うコンサルティングで、これまでに39社への導入支援のほか、14社に需給管理のコンサルティングを行ってきました。

淺田のキャリアの特徴は、第一線で需給管理のコンサルティングを実践しながら、コンサルティング活動で得たノウハウを社外に向け発表していることで、『在庫管理のための需要予測入門』(東洋経済新報社)など数々の書籍、コラム記事を執筆し、大学講師も務めるなど、需給管理を軸に幅広く活動しています。

「需給管理に取り組むようになったのは、住友金属工業時代に関係会社から相談を受けたことがきっかけでした。納期の要求が厳しくなったことで、それまでの受注生産から見込み生産に切り替えたところ、在庫が膨れ上がっていました。それを数理技術で解決できないかということでした」と淺田は振り返ります。

それまで生産計画の最適化に取り組んできた淺田でしたが、需給管理に可能性を感じ、専門分野として従事することとなりました。「需給管理は製造業だけでなく、小売や卸など流通業でも必須です。実際に多くの企業にニーズがありました」と話します。個々の案件を通して、独自の需給管理の世界を極めてきたのです。

当たらなくても価値がある需要予測を

需給管理、特に需要予測には難しさもあります。「需要予測は当たらないもの」(淺田)だからです。「当たらないことで需要予測自体が否定されることがありますが、それは思い違いです。当たらなくても情報を上手に利用することが需給管理には重要なのです」と淺田は語ります。

新製品は過去の販売データがなく、当然予測は難しくなります。消費財などでも社会情勢や流行の変化などから予想外の状況が起きて、大きく予測と乖離してしまう可能性もあります。

数理技術の特徴はデータに基づいて意思決定を支援することです。需要予測もそうです。データを分析して適正な値を探っていきます。その過程でデータが整理され、業務が標準化され、会社としての需給の考え方が確立されていきます。当たる、当たらないといったことではありません。

物理現象と違って構成要素が多くモデル化が難しいのも需要予測の特徴です。その意味でAIの活用は容易ではありません。「AIで需要予測をしたいと考える人が増えていますが、なぜ需要予測が必要なのかをまず考えるべきでしょう。AIの活用という手段が目的になっているケースがよく見られます」(淺田)

ただし、最近ではSNSのデータや気象やイベント情報などのコーザルデータを活用して予測精度を上げられる可能性が広がっています。安易なAI活用に警鐘を鳴らす淺田自身も「AI活用については今後も研究を進めていきたい」と意欲を語ります。

需給管理のための一つの仕組みとしてデータを共有することで、営業部門と製造部門など部門間でコミュニケーションが取りやすくなることにも大きな意義があります。「根拠のない対立がなくなり、会社全体がうまく回るようになります」と淺田は指摘します。

欠品を防ぎたい営業部門は多めに在庫を持ちたがり、製造部門はまとめて生産したいと考えます。在庫を少なくしたい、多品種を少量ずつ作ってほしいという経営のニーズとは相反します。需給管理によってこうした状況を打開する落としどころが見えてきます。

一方、需給管理を成功させるためにはデータも重要です。「データの鮮度、そして正確性が大切です。数日前のデータしか入手できない場合や、部門によって見ているデータが異なる場合、適切な需給管理ができなくなります」と淺田は指摘します。

需給管理の価値と重要性を啓蒙していく

淺田のこだわりは「業務に使える需給管理」を実現することです。そのために社外に向けての情報発信などの啓蒙活動にも取り組んできました。

「需給管理は表面的には何も新しいものを生み出しません。うまくいって当たり前と見られがちです。しかし、コストを抑え、在庫を適正に保ちつつお客さまに商品を円滑に届けることはとても重要な業務です」と淺田は需給管理の価値を語ります。

顧客ニーズが多様化し、激しく変化する昨今、需要予測は難しくなる一方だからこそ、需給管理をしっかりやることが重要になるのです。

「課題はお客さまごとに違います。1つ1つに寄り添って解決していくしかありません」と淺田は語ります。需給管理に対する淺田の考え方に賛同してくれるお客さまと一緒に仕事をしていくのが、需給コンサルタントとしての淺田のスタンスです。

同時に淺田が注力しているのが後進の育成です。彼らが同じように需給管理の本質的な重要性を発信して啓蒙してくれることで、賛同する企業も増えていきます。「業務知識や数理技術については勉強すれば身に付きますが、お客さまとの会話から課題を引き出すなどのスキルは個人のキャラクターによってベストなやり方も異なるため、寄り添って試行錯誤していくしかありません」と淺田は話します。

情報を発信し、需給管理の価値を啓蒙する活動はまだまだ続きそうです。