新しい頼り合いのカタチをつくる

  • 対談

社会課題解決と経済価値創出を両立させる共想共創ビジネスを推進

(写真左)
キヤノンITソリューションズ株式会社
上席執行役員
村松 昇
Noboru Muramatsu

(写真右)
株式会社AsMama
代表取締役社長
甲田 恵子 氏
Keiko Koda

社会を構成するすべての人や企業や自治体などが、頼ったり頼られたりすることを通じて本来の能力を発揮でき、それぞれが理想とする経済的、精神的豊かさを創出する──。そんな社会の実現をめざして創業し、注目されているのがAsMamaだ。その事業内容は、キヤノンITソリューションズが「大切にしている7つのこと」のまさにど真ん中にあり、手を携えてビジネスを推進していくことになった。このコラボレーションについて、両社の2人のキーパーソンが語り合った。(以下、敬称略)

地域の人たちをつなぎ、頼り合える仕組みをつくる

甲田 恵子

株式会社AsMama
代表取締役社長
甲田 恵子
Keiko Koda

まずはAsMamaが推進しているソーシャルビジネスについて教えてください。

甲田AsMamaは、社会課題解決と経済価値創出を両立させることをめざして創業しました。子育てや生活を支援してほしい人と支援したい人をつなぐプラットフォームを提供するソーシャル事業を柱としていますが、いわゆるC2C(Consumer to Consumer)のビジネスにとどまらず、地域の人々と自治体、そして企業をつなぐ取り組みをしていることが大きな特徴です。

 地域で活躍するシェア・コンシェルジュと呼んでいる人材とICTを組み合わせ、子どもの一時預かりやおさがり、おすそ分けなど、地域の知人同士の助け合いを保険付で円滑に実施するスマホアプリの「子育てシェア」や、自治体ごとのコミュニティ創出を支援する「コミュニティ機能」といったサービスを提供しています。

どんなビジネスモデルになっているのですか。

甲田自治体や企業などのパートナーのほか、コミュニティ活動を通じて自社のPRや集客を行いたいと考えているクライアント企業から収益を得ています。

村松AsMamaさんが志向しているビジネスは、実はキヤノンITソリューションズが長期ビジョン「VISION2025」で描いている「共想共創カンパニー」のビジョンと非常に多くの部分で共通しています。私どもが提供するソリューションが結果的に社会に貢献できれば良しとするのではなく、最初から社会の困り事をしっかり見据えて、その解決に向けてお客さまと共にアプローチしていこうという想いを込めたもので、AsMamaさんと同様に、あるべき姿を「共想」し、その想いを「共創」しようとしています。

甲田まさに想いは同じですね! AsMamaでも地域の人々に対して自己実現と子育ての両立、自治体に対しては地域の活性化や人口増、企業に対しては顧客獲得や事業成長といった課題解決および価値向上を支援する、“三方良し”を実現したいと思っています。最大の課題は収益を得るためのビジネスモデル

とはいえ、社会課題解決をめざしたビジネスは、マネタイズするのが非常に難しいのが実情です。

村松AsMamaさんが自治体や企業に対して「この指とまれ」と呼びかけている、現在のビジネスモデルを実現するまでには、多くの紆余曲折があったのではないかと思います。そのあたりの苦労話もぜひ聞かせていただきたいです。

甲田AsMamaを創業したのは2009年のことですが、おっしゃるとおりで収益に確信を持てるビジネスモデルを見つけるまでにその後1年半かかりました。子育てを支援してほしい人と支援する人をつなぐためには、知らない人に子どもを預けるのではなく、知っている人に預けられるようにすることが大切ですが、そこにマネタイズポイントがないのです。

 先に述べた「子育てシェア」という共助を支援するアプリを作り、日本各地で年間2000回近く開催している交流イベントを通じて、「登録料も手数料も無料なので、ぜひ使ってください」とお勧めするのですが、やはり1、2回会っただけでは使ってもらえません。

 では、どうすれば使ってもらえるのかと、考え抜いた末にたどり着いたのが、AsMamaのスタッフが出向いて何かをするのではなく、地域の人たちが中心となって活躍できるプラットフォームをつくるというアプローチです。これならば地域の課題解決に当たっている当事者として自治体も目を向けてくれますし、そこに企業をアテンドすることでビジネス機会を提供することも可能となります。自治体や企業はきっとスポンサードしてくれるはず、という狙いがドンピシャで当たりました。

村松そうした地域で活躍する人たちのことを、シェア・コンシェルジュと呼んでいるわけですね。

甲田そうです。現在では1000人以上となったシェア・コンシェルジュが全国各地で活躍しており、「子育ての相談相手がいない」「コロナ対策の給付金を受給するための方法が分からない」「子どもが保育園に入れなくて困っている」といった声を受けて、さまざまな相談会を自発的に行ってくれています。もちろんシェア・コンシェルジュだけでは分からない、対応しきれない問題も出てきますが、そこに対してAsMamaがノウハウを提供し、地域が自立できるようにサポートします。

スポンサードしてくれる企業については、どうやって集めているのですか。

甲田AsMamaは決して大きな会社ではないので本格的な営業活動やプロモーションなどはできていませんが、さまざまなフォーラムや各地の交流イベントを目にした企業の皆さまから、AsMamaと連携して地方に進出したい、子育て世帯向けのマーケティングをしたいといったお声がけをいただくようになりました。

同じ志を持つ企業同士、手を組まない理由はない

村松 昇

キヤノンITソリューションズ株式会社
上席執行役員
村松 昇
Noboru Muramatsu

AsMamaとキヤノンITソリューションズのコラボレーションは、どんな経緯から始まったのでしょうか。

村松AsMamaさんと手を組みたいという企業や自治体の気持ちがよく分かります。何といってもキヤノンITソリューションズ自身がそうですから。実際に今ではこうして共想共創ビジネスで連携することになりました。AsMamaさんと私どもが出会ったのは、経済産業省のイノベーター育成プログラム「始動Next Innovator 2020」に参加した当社の社員(ビジネスイノベーション推進センター 西本真也)が甲田さんにメンタリングを依頼したのが最初でしたね。そこで盛り上がった後の延長戦のような形で、ビジネスディスカッションが始まったと聞いています。

 きっかけをつくったその社員は「甲田さんはAsMamaの代表でありながら、自らもシェア・コンシェルジュの一人として活動し、地域の多くの人たちの声を聞いて、本当に解くべき社会課題を解決しようとしている。その姿勢を見続けていると個人としても会社としても微力ながら支援できることはないか、社会を良くするためにもっとできることはないかと考えるようになった。そう考えるようになるくらい、AsMamaさんが与える社会的インパクトは大きい」と、今でも熱く語っています。

甲田ありがとうございます。ではこの機会に、私からも率直な質問をさせていただきたいと思います。私も経営に携わっているので分かるのですが、通常、キヤノンITソリューションズさんのような大手ベンダーが組織を挙げて動くとなれば、やはり大企業のお客さまを相手にしないと採算が取れません。AsMamaのような零細ベンチャーと付き合うのは、キヤノンITソリューションズさんにとって前代未聞の出来事だと思いますが、社内稟議を通すのにも相当なご苦労があったのではないでしょうか。

村松実は最初NGだったのです……と言ったほうがドラマチックかもしれませんが、実際には全然そんなことなく、経営陣からは即決でOKがでました。私も担当部門であるビジネスイノベーション推進センターから具体的な案件内容を聞いたところ、「これは我々がやらなければならない仕事だ」と直感しました。

 AsMamaさんの志ほどではありませんが、私どもも、共想共創カンパニーのビジョン実現に向けたミッションステートメントとして、次の7つのことを大切にしています。

  • 「企業課題」と「社会の困りごと」を、私たちのお客さまと、考えます
  • お客さまを深く理解し、お客さまも気づいていない課題に、着目します
  • お客さまの「こんなこと、できたらいいのに」を、共に考え、カタチにします
  • さまざまなパートナーと共に、グローバルに通用する知見と技術を、磨きます
  • 最適なICTソリューションで、お客さまの期待を、超えます
  • お客さまの発展のために、共に歩みます
  • 社員の挑戦と成長、そして幸せを、大切にします

 これらすべてをAsMamaさんはすでに実践されています。でも、ICTについてはどうしても手が回らないところがある。ならばそこを私どもの技術で貢献できると考えました。

甲田ビジネスイノベーション推進センターさんにとっては、極秘案件として進めているのではないかと思っていたくらいですので、今のお話を聞いて安心しました。

村松もう一つ述べておくと、私どもは今後に向けたDX戦略においても「ビジネスデザインを共想し、お客さまの新たな事業価値を共創する」「デジタル技術を活用し、お客さまとキヤノンITソリューションズが共にリスクを取り、新たな事業価値を共想・共創する」というトランスフォーメーションをめざしています。これを実践する意味でも、AsMamaさんとの共想共創は最優先です。やらない理由はありません。

甲田とても心強いです。これまでもICTシステムに関してさまざまな開発会社に相談を持ち掛けてきましたが、そこで必ず聞かれたのが、どんな機能をどのような形で実装したいのかという仕様やアーキテクチャーに関する内容で、経験のない私たちにはうまく答えることができませんでした。これに対してビジネスイノベーション推進センターの皆さんからいつも質問されるのは、「なぜそれを叶えたいのか」「それを叶えたらどう変わるのか」といった内容です。ICTに関してまったく知識のない私たちと同じ立場、同じ目線に立って、課題を理解しようとしている想いを強く感じます。

村松キヤノンITソリューションズのエンジニアは皆、同じ志を持っていますので、これからも遠慮なくどんどん声をかけてください。

両社のパートナーシップをさらに深化

両社の具体的な共創の動きと、今後の展望について聞かせてください。

村松AsMamaさんとキヤノンITソリューションズによる共想共創ビジネスの実績として、宇都宮市のUスマート推進協議会における2021年度の新たな実証実験に「アプリを活用した子育て世代の頼りあい推進プロジェクト(仮称)」が採択されましたね。

甲田はい。「子育てシェア」を活用し、保育園や幼稚園、小学校のクラスといった単位で助け合うシェアコミュニティの創出を支援しながら、頼り合い活動の拡大に関する効果を検証するプロジェクトです。

村松私どもは事業検証に向けたICTシステムのアジャイル開発、現行サービスのICT課題解消、ビジネス拡張とICTシステムのディスカッションといった、頼り合いを支えるプラットフォーム開発で共創させていただきました。このパートナーシップを今後に向けて、さらに深化させていきたいと思います。

甲田AsMamaとしても、地域の人たちをつなぎ、頼り合える仕組みをさらにブラッシュアップし、課題解決を推し進めていきますが、そうした中ではICTを活用する部分についても継続的な改善や拡張が不可欠です。私たちは地域の最前線で頑張っていきますので、キヤノンITソリューションズさんにはICTのフロント側とバックエンド側の両面から、末永くお力添えをいただけたらうれしいです。

村松承知いたしました。キヤノンITソリューションズとしてもお客さまのウイッシュに対するバリュー提供を通じて新領域の探索を進めていきたいと考えており、さまざまな社会課題解決に向けたソリューションのメニューを拡充するとともに、コンサルティングおよび的確なICT実装のスキルを強化していかなければなりません。

 そのためにもAsMamaさんに対して望むのは、今後もお互いに言いたいことを言い合える関係であり続けたいということです。地域社会を良くしていきたいという根っこの部分の想いはまったく同じですので、そこだけは外してはなりません。遠慮なく意見をぶつけながら、一緒に前進していけたらと思います。

甲田とてもありがたいです。地域の人材の活躍と共助を支えるソーシャルビジネスモデルをさらに発展させ、より豊かな社会を実現するために、今後もワンチームでチャレンジを続けていきましょう!

村松 昇

村松 昇(むらまつ・のぼる)

1987年、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)入社。2002年より同社ITサービスの販売推進を担当。2009年、キヤノンITソリューションズに出向。同社でシステムインテグレーション事業に携わり、2019年執行役員、2020年上席執行役員、2021年から新設されたデジタルイノベーション事業部門担当。2021年、スーパーストリーム代表取締役社長を兼務。

甲田 恵子 氏

甲田 恵子(こうだ・けいこ)

1975年大阪府生まれ。フロリダアトランティック大学留学を経て、関西外国語大学英米語学科卒業。1998年、省庁が運営する特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務を兼務する。2000年、ニフティ入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi groupに入社し、広報・IR室長を務める。2009年3月退社。同年11月に子育て支援・親支援コミュニティとしてAsMamaを創設し、代表取締役CEOに就任する。シェアリングエコノミー協会理事、総務省地域情報化アドバイザー、ハートフルファミリー理事を兼務。

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。