電子部品のテストに新手法を提供
自動車メーカーの試験効率化を推進

  • 事例
  • 日本ナショナルインスツルメンツ株式会社 様

試験システムを提供する日本NIとソフト開発に強いキヤノンITSが協業

電子化が進むクルマの開発や製造では、電子部品が正しく動作するかどうかを仮想的な検証環境でテストすることが求められます。電子部品のテストのたびに実車を使った衝突試験などは行えないからです。そうした電子部品の検証環境を整備したい自動車メーカーの要望に対して、日本ナショナルインスツルメンツ(日本NI)はキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)と協業してソリューションを提供しています。

複雑化するクルマの開発で重要度を増す電子部品試験

北川 雅也 氏、ケン・シーバー 氏

(写真右)
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
営業本部 第一営業部
シニアアカウントマネジャー
エレクトロニクス業界担当
北川 雅也 氏

(写真左)
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
車載事業部
プリンシパル ビジネスディベロップメント マネジャー
ケン・シーバー 氏

現在の自動車は電子部品の集合体と言っても過言ではありません。ナビゲーションやオーディオビジュアルなどの車載インフォテインメントシステムはもちろん、自動車が「走る、曲がる、止まる」ための基本機能から、安全支援のためのさまざまな機能まで、電子部品が連携して制御しています。

そうした電子部品の頭脳に相当するのがECU*1です。1台の自動車には数十から100を超えるようなECUが搭載され、車内ネットワークであるCAN*2を介して協調制御するのです。

日本NIは、ものづくりをするエンジニアに向けた課題解決を支援するシステムやサービスを提供しています。自動テストや自動計測システムやデータ・システム運用システムなどが主な製品です。具体的には、エンジニア向けの開発用ソフトウェアとモジュール式のハードウェアを提供し、さまざまな業界のものづくりをサポートしています。日本NIの北川雅也氏は、「自動車業界に向けてECUなどの部品や組込み制御システムをシミュレーションの活用によりテストするプロセスを提供し、テスト時間の短縮とテストカバレッジの拡大を実現しています」と説明します。

こうしたテストのプロセスの一つにHILS*3と呼ばれる手法があります。日本NIではモジュール式のハードウェアとMBD用ソフトウェアにより、HILS機能を提供しています。このように自動車業界のハードウェア開発支援を長年続けてきた日本NIは、2020年10月からキヤノンITSと自動車向けのECUの検証のためのソリューションを協業で開発することになりました。ある自動車メーカーに向けたソリューションの提供です。

*1 ECU(Electronic Control Unit):電子制御ユニット

*2 CAN(Controller Area Network):車載ネットワークの通信規格

*3 HILS(Hardware-In-the-Loop Simulation):機器の制御基板をシミュレーション環境で仮想的に動作させる装置

試験用プラットフォームを持つ日本NIがキヤノンITSと連携

両社がECUテスト環境を協業で開発することになったきっかけは、キヤノンITSが自動車メーカーからECUの評価環境の構築を依頼されたことでした。自動車メーカーは、多くのサプライヤーにECUをはじめとした部品の製造を依頼し、それらの部品を組込んで自動車を作り上げています。サプライヤーが製造したECUが「正しく動作するか」「次工程の実車評価に移行できる品質に達しているか」をチェックする受け入れ評価のための環境構築です。

ここで難しいのが、ECUは単体で動作するものではないことです。自動車に組み込んで使うECUは、CANでつながった他のECUと連携した上で求める機能が実現できているかを評価する必要があります。一方で、ECUの評価のためだけに実車を用意するのは現実的ではありません。そこで評価対象のECU以外の機能をダミーで用意したシステムを使い、シミュレーションで実車の振る舞いに近く、再現性の高い評価をすることが求められるのです。

キヤノンITSのエンベデッドシステム事業部のオートモーティブシステム開発本部でも、CANの通信を模する「ECUシミュレーター」を用意して、エンベデッド(組込み)システムの評価へのソリューションを提供してきました。しかし、より広い範囲のECUの挙動をシミュレーションするには、キヤノンITSが強いソフト面だけでなく、自動車のハード面のシミュレーションを高いリアルタイム性をもって実現できるHILSの機能が必要でした。

日本NIは、HILSの機能をモジュール式のハードウェアとMBD用ソフトウェアからなるシステムで提供しています。日本NIのケン・シーバー氏は、「当社の『PXI』はオープン性を指向したシステムで、さまざまなハードウェアを組み合わせてテストできるように、モジュールとして部品を用意しています。PXIならば用途に応じて必要な部品を組み合わせ、テストに必要な機能を提供できます。その上でエンジニアが使いやすいソフトとしてアプリケーションを提供します。今回は、PXIのモジュール式のハードウェアと計測や制御向けのシステム開発ソフトのLabVIEWを使い、キヤノンITSのECUシミュレーターと連携させてお客さまが求める評価環境を提供しています」と説明します。

日本NIとキヤノンITSのエコシステム

日本NIとキヤノンITSのエコシステム

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顧客のECU検証の課題を両社の協業で解決へ

日本NIは、これまでも自動車メーカーを含めて多方面のエンジニアに自動テストや自動計測システムを提供してきました。しかし、「日本NI単体では、車載機器について個々の自動車メーカーの深掘りした課題について解決しきれません。キヤノンITSのように顧客に入り込んだパートナーと手を組むことで、製品企画から市場投入までの全体を俯瞰した課題に気づくことが可能になります。お客さまの事業部の経営目標に直接的に影響を与える対策案を提供できると考えています」(北川氏)

一方でキヤノンITSのエンベデッドシステム事業部の課題は、前述したように「リアルタイム性を求めるハード面を含めた評価」を単独で解決することは難しいことでした。日本NIのHILSと連携することで、顧客である自動車メーカーの要求に応えられるようになりました。この協業の成果として、自動車メーカーは新しいECUの受け入れ評価環境を手に入れられます。

自動車業界の変化について、シーバー氏は「ADAS(先進運転支援システム)や自動運転への取り組みが不可欠になり、センサーやカメラから大量のデータが取り込まれるようになりました。それにつれて自動車1台のECUに向けたプログラムは航空機を大きく超える量になっています。走行シナリオを作るソフトウェアとHILSを組み合わせて使うことでカメラやレーダーに他車が接近している波形をダミーで再現して、実際に走行試験をせずにADASなどの機能を確認できるようになります。すなわち安全で短期間にECUのテストが可能になる効果が得られます」と語ります。

このような開発手法は、コンピューター上で実際の自動車などの機能をシミュレーション可能にする「モデル」を作って開発/検証することから、モデルベース開発(MBD)と呼びます。日本NIとキヤノンITSの協業の成果として、自動車メーカーはモデルベースによる開発や試験を支えるシミュレーション環境の構築が容易になるのです。

両社の協業の意味は、今回の顧客の自動車メーカーへの価値提供にとどまりません。日本NIとキヤノンITSの共創によるソリューションは、モデルベース開発を支える検証プラットフォームとして、部品サプライヤーを含む自動車メーカーのサプライチェーン全体への応用が期待できます。

さらに、「自動車業界だけでなく、幅広い業界でモデルベース開発の需要が増えてきています。両社の共創により、他業界での活用の促進をお手伝いできると考えます。また、データによる価値創造を得意とされているキヤノンITSと日本NIが組むことで、共通の顧客のビジネス課題に直結する『品質改善』や『画期的な製品企画』の役に立てると期待しています。開発者は高い品質のテストプロセスを大幅に短縮した時間で実施できます。結果として、市場投入の時間を短縮できるだけでなく、新たな商品開発の『余裕』を生み出すことで貢献できればと思っています」と北川氏は説明します。

ハードを含めた製品のテスト環境を提供する日本NIと、顧客に近い立場で仕様からの評価設計ができるキヤノンITS。両社の協業は、自動車業界だけでなく多様な業界の開発プロセスの効率化に寄与し、日本の製造業の力を強めることにつながっていきそうです。

日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社

設立

1989年7月24日

代表者

代表取締役 コラーナ マンディップ シング

所在地

東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル

事業内容

モジュール式のハードウェアとオープンで柔軟なソフトウェアシステムの設計と製造販売。システム設計ソフトウェア、プログラミングツール、アプリケーションソフトウェア、システムとデータの管理、モジュラーハードウェアなどの製品、テクノロジー、サービスの提供

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