新生産管理システムで品質向上とデジタル統合管理を実現

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  • マルハニチロ株式会社 様

QCDの究極的な向上を目指してスマートファクトリー構想を推進

「世界においしいしあわせを」をスローガンに、グローバルで水産品、加工食品を生産・販売するマルハニチロにとって、加工食品領域の強化は成長戦略の柱の1つです。安心・安全な加工食品を提供し続けるために、同社ではキヤノンITソリューションズと協力して新生産管理システムを構築しました。ミス(失敗)の未然防止とデータの統合管理を実現し、製品品質の向上と業務効率化・高度化の両面で大きな成果を上げています。

2000件のトラブルから目指すべき姿を描き出す

鈴木 創 氏

マルハニチロ株式会社
情報システム部 企画管理課 課長役
鈴木 創 氏

2007年にマルハとニチロの経営統合によって誕生したマルハニチロは5つの事業セグメントを持つ総合食品メーカーです。2018年から始まった中期経営計画では、10年後のビジョンを「グローバル領域で水産品、加工食品を生産・販売する総合食品企業」と定義し、経営戦略には「収益力のさらなる向上」「成長への取り組み」「経営基盤の強化」を掲げています。「成長への取り組み」の柱の1つとして、加工食品事業にデジタル統合基盤である新生産管理システムを導入しました。

マルハニチロ株式会社情報システム部企画管理課課長役の鈴木創氏は「業務改革に取り組む以前の生産工場の業務は手作業が中心で、国内にある7つの生産拠点ごとに業務プロセスが異なるといった課題を抱えていました」と当時を振り返ります。また、環境の変化も危機意識を高めました。「食品の安心・安全を実現するために取引先の要求水準が一段と高くなったことや、従業員の世代交代への対応も必要でした。ミスの発生と作業の属人化を、業務改革で解消することが急務でした」(鈴木氏)

その切り札として期待されたのが、新生産管理システムの構築です。まず着手したのが2000件にも及ぶ過去に発生したトラブルの分析でした。鈴木氏は「いろいろな人がさまざまな失敗を起こしており、再発防止策も人の力量に依存している事実が見えてきました。一方、工場の従業員の声を聞く中で見えてきたのは、一人ひとりが失敗をしないように心掛けお客さまのために一生懸命にものづくりをしている姿でした。それでも人はミスをします。そこで“トラブルを未然に防ぐ環境づくり”こそがスマートファクトリー構築の鍵だという確信に至り、現状の業務とのギャップを明らかにしました」と語ります。解決にはICTの活用が不可欠と判断し、新生産管理システムの導入検討を本格的にスタートしました。

「求める機能要件を90項目に整理し、要件を満たす生産管理システムを探しましたが、すべての要件に適合するパッケージがなかったので、ITベンダーに提案を依頼しました」と鈴木氏は話します。2014年10月のことでした。

パッケージとの掛け算で標準化と共通化を推進

提示した主な提案依頼ポイントは「ミス防止およびロットトレースの具体策」「生産計画から発注、製造などへの指図の展開方法と実績収集方法」「単品別・工程管理の具体策」「品質管理の具体策」の4つです。

パートナー候補は最終的に2社に絞られましたが、選択されたのはキヤノンITソリューションズでした。基幹業務パッケージ(mcframe)の使用を軸に、マルハニチロが提示した4つのポイントを実現するための体制が明確に提案されていたことが決め手でした。「文化が異なる7つの工場のあらゆる業務の改革を実現する上で、購買や在庫管理などの基本業務は、実績のある標準機能に合わせることが有効です。一方で製造や品質管理などメーカーとして強みを発揮したい業務は、納得いくまで機能強化をしたいと考えました。パッケージの持つベストプラクティスの機能と当社が強みとする独自のノウハウを組み合わせるという掛け算を狙いました」と鈴木氏は語ります。

また、キヤノンITソリューションズが「mcframe」をはじめとする生産管理システムの導入実績を豊富に持ち、食品業界に関する知識やERPの知識が高いと感じたことも大きな要因でした。「プロジェクトには延べ60人に参画してもらいましたが、さまざまなスキルを有したメンバーが1つにまとまり、チーム一丸となって推進することができました」(鈴木氏)

しかし、プロジェクトの運営は簡単ではありませんでした。要件定義が膨らんで予算と見合わなかったり、300あるマスタを連携させるための設計・開発に時間がかかったりと、さまざまな壁にぶつかりました。運用テストで工場に常駐したときには、「作業のやり方を変えたくない」という現場からのプレッシャーを受けたこともあったそうです。

マルハニチロの生産管理システムの概要

マルハニチロの生産管理システムの概要

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生産現場と経営をつなぎ、改善努力も「見える化」

「立ちはだかる壁を乗り越えることができたのは“ぶれない活動骨子”を持ち続けたからです。お客さまに品質の良い製品を提供し続けたい。そのためには、製造に携わる従業員にとって働きやすい環境をつくることが必要だという視点で常に判断してきました」と鈴木氏はプロジェクトを振り返ります。

生産現場における使いやすさや分かりやすさの追求、指図を間違いなく実行できる仕組み、製造実行システムを効率的に活用するための固定ラベルの開発など、ユーザーへの配慮を徹底したこともあって、新生産管理システムは2018年5月に無事運用を開始しました。

新システムの効果はすぐに表れます。配合・計量ミスなどの失敗が激減し、廃棄コストが削減されました。ロットトレースや合否判定にかかる時間も大幅に短縮されました。原料購買および在庫管理の標準化・効率化によって在庫回転率が2倍になった工場もあります。

現在、7つの工場と本社を合わせて2000人以上が新システムを活用しています。生産活動がデジタルで一元化されたことで、さまざまな効果が生まれています。製造担当者に明確な指図が出せるようになり、作業と同時に実績との照合が行われ、失敗の未然防止環境が構築されました。経営層に向けても、発生明細データの積み上げによるKPIなどの経営情報の見える化が実現できました。

実際にエンドユーザーからも「安心して作業ができる」「新人にも安心して任せられる」「作業指図が明確になった」などの声が上がり、「損益分析が容易になった」「営業部門として外部にアピールできる」といった事業を取り巻く関係者からも高く評価されているようです。

「今後は生産管理システムの機能を強化しながらグループ会社や他事業への展開を計画しています。また、IoTを活用した製造設備のリアルタイム把握、AI活用やビッグデータ解析によるデータ分析の高度化・自動化を目指していきたいです。デジタル統合管理のための基盤ができたので、今後さらに改良や拡張を重ね、業種や業界にこだわらない、製造業の模範となるスマートファクトリーに成長させていきたいと考えています」と鈴木氏。そこでもキヤノンITソリューションズが大きな役割を果たすことを期待されています。

マルハニチロ株式会社
マルハニチロ株式会社

設立

1943年3月31日

代表者

代表取締役社長 伊藤 滋

従業員数

連結1万1276人、単独1578人(2019年3月31日現在)

住所

東京都江東区豊洲3-2-20 豊洲フロント

事業内容

漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、冷凍食品・レトルト食品・缶詰・練り製品・化成品・飲料の製造・加工・販売、食肉・飼料原料の輸入、食肉製造・加工・販売

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※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。