ヘリ機体の稼働率向上実現に向け複雑な部品供給のIT化を推進

  • 事例
  • 川崎重工業株式会社 様

Web Performerが支えた大規模システムの短納期開発

報道や人命救助などさまざまな場面で活躍するヘリコプター。その開発・製造・メンテナンスを手掛けているのが、川崎重工業 航空宇宙システムカンパニーです。同社では、ヘリコプターの安全性や稼働時間を保証し、ビジネスとして収益を上げるため、キヤノンITソリューションズの協力の下、数千品目もの部品を管理し、適切な需要予測に基づいて部品供給を実現する新システムを開発。部品供給可用率が大幅に向上し、大きな成果を上げています。

航空機事業の収益構造に変化、正確な部品供給管理が課題に

可児 真嗣 氏

川崎重工業株式会社
航空宇宙システムカンパニー
航空宇宙ディビジョン
ヘリコプタプロジェクト総括部
ヘリコプタ業務部
防需ヘリコプタ業務課 担当課長
KLS(Kawasaki Logistics System)室長
可児 真嗣(かに・しんじ)氏

オートバイや船舶、鉄道車両の製造や産業プラントなどさまざまな事業を展開する国内屈指の重工業メーカー、川崎重工業。その中でヘリコプターや航空機部品、宇宙衛星などの開発・製造を担う航空宇宙システムカンパニー傘下のヘリコプタプロジェクト総括部では、ヘリコプターの製造やメンテナンスを行っています。

そんな川崎重工業が、将来に向けて現在取り組んでいるのが、MRO(Maintenance, Repair & Overhaul:整備・補修・オーバーホール)事業と呼ばれる新しいビジネスモデルです。MROとは、航空機を製造するだけでなく、定期的に整備や部品交換、改修を行い、安全性の維持を保証するビジネスモデルであり、後方支援サービスまで含めた事業形態として、海外航空機メーカーはすでにこうしたビジネス形態に移行しています。これにより、従来の製造・販売と異なり、メンテナンスを含めた中で収益を出すことが求められるようになりました。

川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー ヘリコプタプロジェクト総括部 可児真嗣氏は「製造では、利益を上乗せして売り上げを立てることができましたが、整備・補修は実際に機体を確認しなければ、どれだけコスト・工数がかかるか分かりません。ヘリコプターの部品には1個で数億円する高価なものもあれば、発注から納品まで数年のリードタイムを要するものもあります。収益を確保するには、部品の調達・供給管理を徹底し、ヘリコプター自体のライフサイクルを延ばして稼働率を上げることで、納品先に貢献するとともに、適切にコスト削減を行うことが必要なのです」と説明します。

一口に部品の調達・供給といっても、高額で長期のリードタイムを要する部品が多いヘリコプター事業では、需要予測が難しく、一歩間違えれば収益圧迫どころか損害になる可能性があります。また機体の安全性や稼働時間を保証できずに、納品先にも損害を与えてしまうリスクもあります。加えて部品自体も、指定の時間を超えたら交換が必要なもの、暦日交換するものなど、管理も複雑です。

このように業務が非常に複雑なため、同社では自社開発のシステムとともに、Excelを併用して管理していました。在庫情報や入出履歴なども共有されておらず、MROに求められる部品管理のレベルを達成できないという課題があったのです。

Web Performerを活用し短期間にシステムを開発

より良い部品供給管理に向け、試行錯誤を重ねていた同社が、キヤノンITソリューションズの公式Webサイトを通じてコンタクトを取ったのは、2016年10月のことでした。すぐにコンサルティングフェーズに移り、2017年1月には正式にコンサルティング契約を締結し、同年4月から開発がスタート。

キヤノンITソリューションズをパートナーに選んだ決め手について、可児氏は「需要予測ソリューションを持っていたことに加え、こちらの悩みを担当者の方が真剣にヒアリングし、システム化すべき領域と人が対応すべき領域とを切り分けて、当方が希望する期間内で開発・稼働できる提案をしてくれたことが決め手となりました」と説明します。

ヘリコプタプロジェクト総括部では当時、2017年内に新しい部品供給システムを稼働させることを目標にしていました。可児氏も「かなり厳しいスケジュールでRFP(提案依頼書)を出しました」と振り返りますが、その期待に応える提案だったそうです。

開発に当たっては、ローコード開発でWebシステムを高速開発できるツール「Web Performer」が採用されました。これにより、4月に本格的に開発フェーズがスタートしてから、わずか6カ月で第1次開発が完了。10月~11月にテストを実施し、12月に基本機能が稼働しました。「これだけの短期間で、こちらが希望した必須要件にはすべて対応いただきました」と可児氏は評しています。

新部品供給システムの最大の特徴は、膨大な部品情報を集約した「パーツカタログ」を備え、ヘリコプター自体の飛行計画や整備計画、部品交換のタイミングを計るために必要な搭載ステータスなどの情報をひも付け、管理している点にあります。数千品目に上る機体部品それぞれに対し稼働時間などが毎月アップデートされることで、システム側である程度交換時期を判断できるようになりました。さらに、パーツカタログをシステムの心臓部に置くことで、将来のシステム機能のバージョンアップにもスムーズに対応できます。

川崎重工業の部品供給業務システムの概要

川崎重工業の部品供給業務システムの概要

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部品供給可用率は大きく向上、需要予測精度の追求は続く

新システム稼働後、納品先からの緊急発注への対応が図れるようになり、部品供給可用率(継続的に部品を供給できる確率)が向上しました。可児氏は「請求に応じて、次々に部品を供給できている状態です」と説明します。

また、部品調達の手続きも簡素化しました。従来は、高額部品を調達する場合には書類を書いて決裁を取る必要がありましたが、新システムではシステム内で承認を取ることができるので、「ネットで品物を買うように、ボタン一つで発注できるようになりました」(可児氏)と言います。こうして手続きが迅速化することで、リードタイムが長い修理部品でも早めに調達をかけることが可能になり、部品が供給されるまでの時間を短縮したことでコスト圧縮につながったそうです。その結果、納品先からの信頼度も向上しました。

今後の方向性としては、部品属性をより管理しやすいように、稼働時間などのデータを分かりやすくグラフ化する仕組みなど、ポイントを絞って分かりやすく提示していく考えです。

さらに、部品の信頼性向上につながる技術情報を記録・管理できる機能の実現に向け、現在青写真を描いているとのこと。もちろん、需要予測の精度向上や効率化はこれからも追求し続ける方針です。

「この仕事をやっていて実感するのは、部品は生き物だということです。具合が悪くなる前に、その予兆となる現象が現れる、そのサインを見逃さずに、適切に部品供給を行うことが重要です。キヤノンITSさんに開発していただいたシステムを有効に活用することによって、私たち自身が大切に部品を管理することで安心・安全な機体のライフサイクルを実現し、納品先にも喜んでいただきたいと思っています」(可児氏)

川崎重工業株式会社
川崎重工業株式会社

設立

1896年10月15日

代表者

代表取締役社長執行役員 橋本 康彦

従業員数

3万6332人(連結・2020年3月期)

住所

東京都港区海岸1丁目14番5号

事業内容

鉄道車両、航空機、宇宙機器、ジェットエンジン、各種発電設備、各種舶用機械、各種産業用機械、ロボット、大型鋼構造物、モーターサイクル、レジャー関連機器等の製造・販売

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※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。