ニューノーマル時代のDXと大規模システム開発

  • 対談

「Web Performerアジャイル開発支援サービス」がお客さまの新しい価値創造を加速する

(写真左)
キヤノンITソリューションズ株式会社
上席執行役員 SIサービス事業統括 担当
大久保 晴彦
Haruhiko Okubo

(写真右)
株式会社日立製作所
アプリケーションサービス事業部
サービスソリューション本部 本部長
元山 厚 氏
Atsushi Motoyama

老朽化した基幹システムの刷新は日本企業の切実な課題として注目されている。ただ、従来通りのやり方では多大なコストと時間がかかる。そこで、キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、超高速開発/ローコード開発プラットフォーム「Web Performer」の新バージョン「V2.4」で大規模開発向けの機能を大幅に強化。また、日立製作所との協業により「Web Performerアジャイル開発支援サービス」の提供を開始した。
両社のキーパーソン2人が、大規模開発とアジャイル開発の将来について語り合った。(以下、敬称略)

老朽化した基幹システムの刷新が課題

大久保 晴彦

キヤノンITソリューションズ株式会社
上席執行役員 SIサービス事業統括 担当
大久保 晴彦
Haruhiko Okubo

近年、基幹システムの刷新に取り組む企業が増えています。ITベンダーの立場から、お二人はその動向をどのようにみていますか。

大久保最近、「2025年の崖」という言葉が盛んに使われます。長年動いてきた基幹システムの刷新は、今や切実なテーマとして認識されていると思います。その際、従来のウォーターフォール型の開発手法だけでは、変化対応の柔軟性やスピードなどの観点で十分に対応できないのではないか。私たちはそう考えて、さらにアジャイル開発の取り組みを強化しています。お客さま側の意識も、同じ方向に変わりつつあると感じています。

元山基幹システム刷新に関してはウォーターフォールでの開発が主軸になりますが、アーキテクチャとしてマイクロサービス化を検討する企業が少なくありません。その上で、開発の一部をアジャイルでやろうというケースもあります。どのようなアプローチをとるにせよ、DXやイノベーションへの対応を考えれば、基幹システムの刷新は避けて通れない課題でしょう。

大久保基幹システムの老朽化は、DXの足かせになりかねません。また、老朽化したシステムの多くはブラックボックス化し、ちょっとした改修にも大きな手間とコストがかかってしまいます。これでは、DXへの投資も難しくなるでしょう。また、近年は開発を担う人材不足が多くの企業で顕在化しています。当社の超高速開発/ローコード開発プラットフォーム「Web Performer」は、このような課題に対する解決アプローチになります。Web Performerは自動生成による開発スタイルなので、開発者に依存したブラックボックス化が起きにくい。安定した品質のシステムを、高い生産性で開発することができます。さらに、今年5月にリリースしたWeb Performerの新バージョンでは、大規模開発に対応する機能を大幅に強化しました。

では、その新バージョンの特長などをお聞きします。

大久保まず、開発生産性の向上を目的とし、サードベンダーや企業内部で開発した“部品”を容易に取り込めるようになりました。外部サービスとのスムーズなAPI連携も強化しています。さらに、リポジトリの変更箇所を複数メンバーで共有しやすくするなど、大規模プロジェクトに適用しやすいチーム開発効率の向上を目指しました。これらは、新バージョン「Web Performer V2.4」の大きな特長です。

大規模開発向けの機能を拡充

元山 厚

株式会社日立製作所
アプリケーションサービス事業部
サービスソリューション本部 本部長
元山 厚
Atsushi Motoyama

元山当社にはWeb Performerのパートナーとして、およそ10年の経験があります。その中で実感するのは、Web Performerのきめ細やかさです。開発をスピードアップするだけでは不十分で、私たちとしては、お客さまの求める帳票デザインなどのニーズにも対応しなければなりません。こうした細かい要求にも対応できることは、Web Performerの大きな強みだと思います。

大久保きめ細やかさという点でも、新バージョンは画面やロジックの開発における拡張性を高めるなど、さらに機能を拡充しています。

元山当社が関わった案件でも、Web Performerはすでにいくつかの大規模開発への適用実績があります。リポジトリ管理についてもご説明がありましたが、これは大規模開発では特に重要です。先ほど触れたきめ細やかさもそうですが、設計書が求められるなど、日本企業には特有のニーズがあります。Web Performerは日本企業向けの機能も充実しており、パートナーとしてはお客さまに提案しやすいローコード開発プラットフォームだと思います。

大久保ありがとうございます。大規模開発向けの機能を一層高めた今回のバージョンアップ。これにより、激変するビジネス環境に日本企業が柔軟に対応できるよう、これまで以上に貢献していきたいと考えています。

次に、アジャイル開発について、日本での動きをどのようにみていますか。

大久保私自身の肌感覚では、全体のITプロジェクトに占めるアジャイルの割合は2割前後、3割には届いていないとみています。

元山私の周囲を見ても、それくらいの比率ですね。

大久保アジャイル開発が増えていることは確かですが、海外に比べると本気度やスピード感という点でやや物足りない感じがあります。例えば、海外では意思決定が速く、「もし失敗したら捨てればいい」と割り切ってアジャイルに取り組む企業も少なくありません。一方の日本企業では、「つくるからには品質を担保しなければ」という意識が強い。品質を第一優先にするなら、アジャイルではなく、時間のかかるウォーターフォールで開発せざるを得ないでしょう。このような意識が根強い日本企業、特に経営層に対してどのように働きかけていくか。それは、ITを提供する側の企業としても大きな課題です。

元山基幹システム開発におけるアジャイル適用については、関心は高まっているものの、まだ二の足を踏んでいる企業が多いのが実情でしょう。ただ、UI/UXのような分野では、アジャイルがかなり受け入れられるようになりました。こうした分野では何よりスピードが重視されるので、アジャイルとローコード開発、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)などがセットで必要になります。

大久保そうした分野でアジャイルを経験してもらいながら、成功事例を増やしていく努力が必要ですね。

元山別の観点ですが、内製化のニーズの高まりも感じます。お客さまの事業部門はもっとスピードを出すために、自分たちでシステムを開発し高速で改善を続けたいと考えています。従来のウォーターフォールはIT部門に要件を集約して、IT部門主導で開発を進めるというスタイルなので、どうしても時間がかかります。

大久保その点、アジャイル開発なら、事業部門主導で進めることができますからね。

元山事業部門主導のアジャイル開発なら、例えば、高速サイクルでUI/UXを改善し続けることができます。理由はさまざまですが、こうした動きが製造業や流通業だけでなく、最近は金融機関などでも見られるようになりました。金融機関の中でも、IT部門は大規模かつ品質の要求レベルが極めて高いシステムを手掛けているので、アジャイルの手法を取り入れるのは容易ではないかもしれません。一方のユーザー部門は、アジャイルに取り組みやすい環境があるのだと思います。このような金融機関の動向などを見ても、アジャイルは間違いなく、大きな流れになりつつあると感じます。先ほどの品質問題についても、アジャイルの経験を積む中でユーザー側、私たちサポート側の双方にノウハウが蓄積しつつあり、解決への道筋も見えつつあるように思います。

アジャイル開発をトータルで支援

キヤノンITSは日立製作所との協業により、Web Performerアジャイル開発支援サービスの提供を始めました。その背景について伺います。

大久保前提にあるのは、アジャイル開発のニーズの高まりです。特に、お客さまのDXを促進するアジャイルでの開発をより強力にサポートするために、当社のWeb Performerと日立さまのアジャイル開発コンサルティングサービスを組み合わせて、新しいサービスを実現しました。アジャイル開発で必要になるCI/CD環境を組み合わせ、定期的なリリースをサポートする環境も提供します。CI/CD環境については、御社の協力を得ながらアジャイルの手法でシステムを構築しました。こうした経験を通じて、アジャイルを自分たちのものにするには、自分たちの文化を変える必要があると痛感しました。こうした学びの成果を含めて、お客さまへの提供価値を高めていきたいと考えています。

元山当社はアジャイル開発コンサルティングサービスの中で、アジャイルの方法論の提供、プロジェクトのための場所の提供などを行ってきました。ただ、それだけでは十分ではありません。ローコード開発環境などを含めて提供することで、お客さまのアジャイル開発をトータルで支援することが可能になります。その意味で、今回の協業には大いに期待しています。

大久保アジャイル開発の強化は、当社の大きな方針ですので、こうした領域で実績のある御社との協業を選びました。コンサルティングやコーチング技術などを学びながら、サービスを着実に成長させていきたいと考えています。

元山アジャイル開発というと、メンバーが1カ所に集まり密着してやるものというイメージがあります。私もそういうものだと思っていました。物理的に集まれば、場の空気を感じながら同じ方向を目指しやすくなりますからね。ところが、新型コロナによりリモートでの開発を考えざるを得なくなった。実際にやってみると、リモートアジャイルは非常にうまく回っています。今後さまざまな課題が生まれるかもしれませんが、新型コロナを経験して得た貴重な気付きの一つでした。

アフターコロナ時代のデジタル戦略

大久保新型コロナが日本企業に与えたインパクトは大きい。リモートアジャイルの可能性への気付きもそうですが、今回の事態を前向きに捉え、新しい発想で変化に立ち向かうことが重要です。アジャイル開発への取り組みやDXの動きも加速するのではないでしょうか。

元山同感です。新型コロナを受けて、企業のIT投資にはやや足踏み感も見られました。本業にダメージのあった企業の復調には時間がかかるかもしれませんが、DXやイノベーションへの投資を増強している企業も少なくありません。そうした企業のニーズに、「ローコードで、アジャイル開発を」というアプローチは非常にフィットしています。

最後に、今後のビジネス展開についてお聞かせください。

大久保ウィズコロナ、アフターコロナの時代、自社のビジネスモデルやサービス形態などをデジタルで見直すという動きに拍車がかかるのではないでしょうか。例えば、製造業であれば、自社の独自販売チャネルとしてECを立ち上げるという選択肢もあるかもしれません。企業の状況によりデジタル戦略もさまざまだと思いますが、私たちとしては、幅広い要求に対応するための準備を整えておく必要があります。最重要テーマは人材と新しいサービスの提供です。アジャイル開発、あるいはクラウド技術などへの対応を加速し、こうした分野の人材育成と新サービスの提供を一層強化していきたいと考えています。

元山今回はアジャイルを中心にお話をしましたが、ウォーターフォールがなくなることはありません。特にSoR(System of Records)の領域では、相当の割合で残り続けるでしょう。その際、冒頭で触れたようにマイクロサービス化を目指しつつ、一部をアジャイルで開発するケースもあるでしょう。一方のSoE(System of Engagement)領域では、多くの企業でDXプロジェクトが加速すると思います。今お話しのあったECをはじめ、顧客接点を増やしたり、新しいサービスをつくったりして、以前にはなかった価値の創出を目指す企業が増えるでしょう。その際には、AIなどの先端テクノロジーを取り入れるケースも多いはずです。当社としてはSoRとSoE、両方の領域でトータルにお客さまをサポートできるよう、技術力やノウハウを磨き続けたいと考えています。

元山 厚 氏

元山 厚(もとやま・あつし)

1992年、日立製作所入社。2016年にアプリケーションサービス事業部第四アプリケーション本部部長(産業・流通分野担当)。2018年から同事業部サービスソリューション本部長。アプリケーション開発実績に基づくサービス・ソリューションを業種横断に展開している。博士(システムズ・マネジメント)。

大久保 晴彦

大久保 晴彦(おおくぼ・はるひこ)

1985年、住友金属システム開発(現キヤノンITソリューションズ)入社。2014年にSIサービス事業本部西日本事業部長(兼)大阪事業所長。2016年に執行役員 SIサービス事業本部産業事業部長。2017年にスーパーストリーム代表取締役社長。2019年、上席執行役員 SIサービス事業統括担当役員に就任。

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。