進化する画像処理ソリューション

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新たなテクノロジーが導く豊かな未来

製造業ではFA(ファクトリーオートメーション)の実現手段として、30年以上も前から高性能カメラや画像処理技術が活用されてきました。昨今のスマートファクトリー化の潮流の中でそうした画像が持つ価値はさらに高まっており、製造工程での大幅な作業効率化に貢献しています。キヤノンITソリューションズでは、エンジニアリングソリューションからエンベデッドシステムまで幅広い事業において、最先端の画像処理技術を活用したソリューションを提供しています。

エンジニアリング領域で展開する 画像・FAソリューション

田原 崇志

キヤノンITソリューションズ株式会社
エンジニアリングソリューション事業部
エンジニアリング技術第二本部
企画部 企画課 チーフ
田原 崇志
Takashi Tahara

キヤノンITソリューションズの画像処理ソリューションは、30年を超える歴史を有しています。1989年から手がけてきた画像処理技術の流れをくみ、取り扱う商材のラインアップを広げながら、現在のキヤノンITソリューションズで多くのお客さま向けに提案活動を行っています。

最も早くから実績を重ねてきたのは、1989年より輸入販売を開始したMatrox社の画像処理ボードです。画像の取り込みから分析、保存に至る処理をPCベースの画像処理ソフト(ライブラリ)と画像処理/入力ボードで実現するもので、位置合わせマーク(アライメントマーク)を用いた製造工程における位置決めや計測/測長、検査工程における外観検査・画像解析、トレーサビリティ用途での文字認識・コード認識などで幅広く活用されています。

その後も産業用のエリアセンサカメラ、ラインセンサカメラ、コンタクトイメージセンサ、3Dセンサカメラなど取り扱う商材を拡大し経験と実績を蓄積してきました。

一方でキヤノンITソリューションズ独自の画像処理検証・開発支援用ツール&ライブラリとして「RobustFinder Suite(ロバストファインダー スイート)」を開発し、製品化しました。「RobustFinder Suite」は、さまざまな産業用検査装置に組み込まれる画像処理アプリケーションを、マウス操作で簡単に作成することが可能な統合型の開発環境です。製造現場では、生産設備の性能向上や検査品質の重要性の高まりから、製造ラインでの作業内容の多様化・複雑化が進んでいました。このような課題を、「RobustFinder Suite」を使うことにより、お客さまが本格的な開発に入る前に複数の開発手法をGUI上にて検証することが可能となり、多彩な検査アプリケーションを効率的な開発手法にて開発できるようになりました。

こうした取り組みを経てキヤノンITソリューションズの画像処理ソリューションは、特に高い精度や高速処理が必要とされる各種検査機器、医療機器、印刷機器などの分野に広く採用されています。また、この実績と経験を通じて多くの技術スキルとともにお客さまの実務に関する知見を培ってきました。

エンジニアリングソリューション事業部 エンジニアリング技術第二本部 企画部 企画課 チーフの田原崇志は、「私たちは、例えば金属表面の検査など非常に難易度の高い画像処理のノウハウを有しており、最新のITを駆使した付加価値の高いサービスとともに、お客さまのものづくりを支える最適なソリューションを提供しています」と、キヤノンITソリューションズが提供する画像処理ソリューションの強みを紹介します。

次なる打ち手となる先端領域でラインアップ拡充を加速

キヤノンITソリューションズの画像処理ソリューションは、現在もラインアップの拡充を続けています。中でも田原が「今後の事業の軸に据えていきたいカテゴリー」として示すのが、ハイパースペクトルイメージング技術やAIを活用した画像処理ソリューションです。

ハイパースペクトルイメージング技術の分野では、ドイツのLuxFlux社と販売代理店契約を締結し、2019年12月上旬より同社が開発した統合ハイパースペクトル画像処理ソフトウェアの提供を開始しました。

ハイパースペクトルカメラとは、簡単に言うと光を波長ごとに分光して撮影するカメラです。通常のカメラがR(赤)、G(緑)、B(青)の3バンドの輝度(明るさ)情報しか取得できないのに対して、ハイパースペクトルカメラは100~200バンド以上といった多波長の輝度情報を取得することが可能。これにより人間の目には見えない情報を可視化することができるのです。

例えば、アボカドの肉眼では見えないあざ(傷んでいる部分)を可視化したり(図1)、食肉の傷んだ部分を見分けたり、シュレッドチーズに混入したゴム手袋の断片を見つけたりすることができます(図2)。

ハイパースペクトルイメージングによる分類(図1)

ハイパースペクトルイメージングによる分類(図1)

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ハイパースペクトルイメージングによる異物混入検査(図2)

ハイパースペクトルイメージングによる異物混入検査(図2)

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このように以前からハイパースペクトルイメージング技術の利用が試みられつつある良品と不良品、あるいは異物などの「分類」用途に加えて、LuxFlux社の統合ハイパースペクトル画像処理ソフトウェアでは、薄膜の厚みや薬剤の成分量などを「測定」することを可能としたのが大きな特長です。「これにより半導体ウエハの薄膜やフィルム・素材、フラットパネルディスプレイの製品検査など、分類より測定が必要とされる工業製品の検査速度と精度を向上させることができます」と田原は強調します(図3)。

ハイパースペクトルイメージングによる測定(図3)

ハイパースペクトルイメージングによる測定(図3)

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これまで日本のハイパースペクトルカメラ市場は大学・研究機関向けが中心でしたが、今後は産業向け市場を中心に世界を上回る年間20%以上の伸びが予測されています。同時にカメラから出力される膨大な情報を処理する汎用ソフトウェア、そしてそれを産業用のラインに入れて制御するソフトウェアに対する需要も高まっているため、キヤノンITソリューションズはソフトウェアを中心として、トータルなハイパースペクトルイメージングソリューションの世界をリードしていきたいと考えています。

さらに、AIの分野では、新たにHMS社のスマートカメラの取り扱いを開始しました。こちらは画像センサ入力と組込み画像処理装置を一体化したAI搭載の産業用スマートカメラです。

AIスマートカメラには、2D(通常の画像センサ)、3D(3次元センサ)、ステレオカメラVSLAMの3種類がありますが、特徴的なのは、AIスマートカメラ3Dです。

これは、ToFセンサと高解像度イメージセンサの2つを同じ画角になるように調整した「フュージョンセンサ付きAIスマートカメラ」です。ToFセンサで対象物の3次元情報を、イメージセンサで解像度の高い2次元画像を撮り、両方を容易に活用できるのが特長で、産業用ピッキングロボットにおける目標物検出のほか、3D形状や寸法計測などを高速に行えます。

ユーザビリティーに優れた付属の開発ツールに含まれる深層学習(ディープラーニング)技術を生かして、今まで目視でしか検査できなかった対象物に対して、より安定した画像判定や分類ができるシンプルなシステムを短期間で構築可能です。

ただし、これらの商材ありきで画像ソリューションが成り立っているわけではありません。「私たちが提案活動を行う際の入り口は、あくまでもお客さまの課題発見。製造現場に関する経験と知見から、課題解決に必要な製品を組み合わせてソリューションとして提供できるのが私たちの強みです」と田原は強調します。

工場の省人化や自動化、生産性や品質の向上、生産現場の人手不足などの課題解決に貢献していきたい考えです。

* ToFセンサ:Time of Flight(飛行時間)センサの略。発した信号が対象物に反射して返ってくるまでの時間を基に距離を計測するセンサ。光を照射して画素ごとに距離情報を検出し、奥行き情報を距離画像(Depth Image)や点群(Point Cloud)として取得できる。

最先端の画像処理技術を実装したエンベデッドシステムを提供

橋本 隆之

キヤノンITソリューションズ株式会社
エンベデッドシステム事業部 技術推進課
プロフェッショナルITアーキテクト
橋本 隆之
Takayuki Hashimoto

キヤノンITソリューションズでは、キヤノンの複合機、カメラ、プリンタなどの民生用製品や医療機器、マシンビジョンなどの産業用製品に搭載するソフトウェアの開発を分担しています。エンベデッドシステム事業部では、長年にわたりキヤノン製品の研究開発や製品開発を通して培った最先端の画像処理技術を生かし、キヤノングループ外のお客さまに対しても製造業向けの外観検査や異常検知、自動車向けの運転支援、流通業向けの無人店舗、農業向けの作物監視などのシステムを提供しています。

これらのシステムはいずれも一般的な画像処理ライブラリを組み合わせるだけでは実現が難しいもので、類似の研究論文や文献を参考に独自のアルゴリズムから提案するケースが大半となります。また、アルゴリズムの認識精度だけではなく、実運用に堪えうる処理速度を実現するため、アルゴリズムの実装をシステムの処理能力に合わせて高速化することも提案しています。

エンベデッドシステム事業部 技術推進課 プロフェッショナルITアーキテクトの橋本隆之は、「キヤノンITソリューションズの強みは、さまざまな業界のニーズや課題に合わせて、最適な画像処理技術を提案し、研究開発から製品開発までをトータルに支援できる技術力にあると考えています」と語ります。

お客さまの課題を理解し最適な解決方法を提案

近年、従来のルールベースの画像処理技術では対応できない課題が増加しており、AI(ディープラーニング)を活用した解決方法を提案するケースが増えています。

当然のことながら、AIを活用した画像認識といえども万能ではありません。お客さまごとに課題は異なり、難易度もさまざまです。

「そこで私たちは、個々のお客さまの課題を完全に理解した上で、最適な解決方法を提案することから始めます」と橋本は語ります。これがキヤノンITソリューションズの提供する画像処理ソリューションの最大のポイントとなっています。

お客さまの現場を視察し、対象物を撮影するために最適なハードウェア(カメラ、レンズ、照明)およびソフトウェアのアルゴリズム(画像処理、AI)を検討し、解決方法を提案します。次のステップとしてPoC(概念実証)を実施し、その結果としてお客さまが実用化する価値があると判断した場合に、システム化提案に移行します。

そして現在、キヤノンとは小型のAIエッジコンピュータ「AI Edge Vision System」の製品開発を進めています。AIのエンジンユニットにNVIDIAのボードコンピュータ「Jetson」を採用し、カメラユニットにキヤノンの5MグローバルシャッターのCMOSセンサを搭載したものです。カメラユニットで撮像した画像をエンジンユニットに高速転送し、GPUによる画像処理とAI推論の高速実行を実現します。画像処理にはマシンビジョンに適した90種類以上の関数を用意し、用途に合わせて利用することが可能です。

かつて大規模なシステムが必須とされたAI画像認識を、より身近な現場で活用できるようにするため、キヤノンITソリューションズはキヤノンと共に小型のエッジコンピュータでお客さまの課題解決に貢献していきます。

AI・画像処理ソリューション 全体概要(図4)

AI・画像処理ソリューション 全体概要(図4)

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ものづくりを変革する産業向けxRソリューション

近年著しい進化を遂げているVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)に向けて、キヤノンITソリューションズはこれらの技術をトータルに活用する産業向けxRソリューションも提供しています。

エンジニアリングソリューション事業部エンジニアリング技術第二本部 MRS技術部 部長の八木則明は、「豊富なxRシステム導入実績、システム構築から開発までの一気通貫体制、長年にわたるCAD/CAM/CAE分野の経験を強みとし、企画コンサルティングから撮影・計測、コンテンツ制作、アプリケーション開発、システム構築、運用・保守までxRの導入プロセスを全面サポートします」と語ります。

この一環としてキヤノンITソリューションズは2020年2月、ビデオシースルー3D方式を採用したMRヘッドマウントディスプレイのフラッグシップモデルとして、「MREAL Display MD-20」を発表しました。「CADデータなどから生成した3Dモデルを現実に見える空間と合成し、その場にあるかのようなサイズと距離感、さらに接触判定を持たせて対象物を表示できるため、モックアップ(デザインを確認するための試作品)に迫るリアルな検証・確認が可能となります」と八木は語ります。

MREALシリーズは、すでに自動車メーカーにおける設計・開発の実プロセスにも組み込まれており、ものづくりの在り方を大きく変えようとしています。

MREAL Display MD-20

MREAL Display MD-20

原寸大の立体映像を透けることなく表示(CGの赤い車)。体験者の視点に追従した自由な角度から観察できる

原寸大の立体映像を透けることなく表示(CGの赤い車)。体験者の視点に追従した自由な角度から観察できる

八木 則明

キヤノンITソリューションズ株式会社
エンジニアリングソリューション事業部
エンジニアリング技術第二本部
MRS技術部 部長
八木 則明
Noriaki Yagi

※ 記事中のデータ、人物の所属・役職などは、記事掲載当時のものです。