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産業用偏光カメラ その1 [2019.06.25]
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シニアアプリケーションスペシャリストによる「技術トレンド情報」(第9回)
産業用偏光カメラ その1 [2019.06.25]

シニアアプリケーションスペシャリスト 稲山

エンジニアリングソリューション事業部
シニアアプリケーションスペシャリスト
筆者 稲山 一幸

 

 

今回は、光沢、透明、黒色など困難なワーク撮像の救世主として話題の「偏光カメラ」についてお話しさせていただきます。“偏光”技術は、従来からありますが、偏光用素子の登場により1ショットの撮像で簡単に偏光技術を活用することができるようになりましたので、実際の撮像事例をもとに、その特性をご紹介したいと思います。

偏光とは

偏光といえば、偏光メガネを思い浮かべる方が多いと思います。水中にいる魚を鮮明に見るため太陽光の水面反射の軽減や、左右の眼に別の像を見せることで立体像として認識させる3D映画などで活用されています。偏光は、特定方向のみに振動する人工光のことで、太陽光など自然光は、方向がバラバラで規則性がないことから非偏光と呼ばれています。ヒトの眼は、光の強度と色を感知しますが、振動方向については認識できませんので、普段我々は、様々な光に包まれたものとして像化しています。風景写真などで見られる木漏れ日や水面の反射光であれば風情ある情景としてよしとされますが、ことマシンビジョンにとってはノイズとなり認識の妨げとなります。非偏光を偏光にするためには、ある方向に合わせたスリットフィルタを通すことで対応できます(図1)。
偏光を活用することで、ヒトでは感知できないレベルで物体をとらえることが可能となります。ちなみに、ヒトも網膜中央にわずかですが偏光特性があります。例えば、パソコンの液晶画面(偏光制御モニタ)を見る場合、全面を真白にした状態(壁紙を白一色等)で画面を見ながら頭をゆっくり右や左に傾けると画面上に黄色と青色の筋(“ハイディンガーのブラシ”)が認識できます(図2)。

偏光のイメージ(図1)

偏光のイメージ(図1)

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ハイディンガーのブラシ(図2)

ハイディンガーのブラシ(図2)

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偏光技術の進化


偏光カメラでの撮像と画像生成イメージ(図3)

偏光カメラでの撮像と画像生成イメージ(図3)

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従来、偏光撮像するには、絞り込みたい偏光角に合わせたスリットフィルタを装着し撮像を行い、また別の偏光角の像を得るためには、スリットフィルタを回転し再撮像する必要がありました。
また、目的が光沢反射の軽減か、透明素材の歪をみるかなど、その対象物の正位の物理的状態を考慮し、その後の画像処理で対応するなど、偏光技術の活用はそれほど容易ではありませんでした。
しかし、近年、素子レベルの加工化技術の進化に伴い、偏光角度を網羅的に対応できるように偏光角に合わせた金属グリッドを設けた撮像素子が開発されました。さらに、撮像後の偏光特性抽出処理も撮像ソフトウェアが準備され、1度の撮像で簡単に偏光技術を活用できる仕組みが整えられました。一例ですが、Baumer社製偏光カメラ「VCX-50MP」では、垂直 (0 °)、水平 (90 °)、対角 (45 °)、対角 (135 °)の偏光角に合わせた金属グリッドをベイヤーピクセル単位に配置しているSONY社製偏光専用素子「IMX250MZR」を搭載しており、1ショットの撮像で4種の偏光角画像とグレースケール画像を出力と、撮像ライブラリによる3つの偏光特性画像(①AOP(Angle-Of-Polarization)偏光角、②DOLP(Degree-Of-Linear-Polarization)直線偏光度、③ADOLP(Angle-and-Degree-Of-Linear-Polarization)偏光角と直線偏光度の合成)の生成が可能となっています(図3)。

偏光特性の種類


偏光特性の種類(図4)

偏光特性の種類(図4)

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偏光角画像(AOP) は、センサ面に対して最も偏光した光角度を可視化したものになります。通常対面撮像の際には、平面上のキズ、汚れ、付着物、立体形状模様などの絶対的な歪の抽出に適しています。

直線偏光度画像(DOLP)は、非偏光に対する偏光の割合で、人工物など平滑面、鏡面は値が高く、複雑な自然物は低くなります(ただし、水は例外)。また、DOLPは、複屈折に比例するため、透明な材料の応力による複屈折を測定する際に有効になります。

偏光角と直線偏光度の合成(ADOLP)は、①と②の合成になります。対象物の局面の複雑性の可視化に適しています。ソフトウェアでは、AOPをHSLカラーコード化し、DOLPを強度値としてカラー画像として出力します。

偏光カメラでの撮像事例「金属光沢面」


エンコーダ信号を使用した回転方向指定(図5)

エンコーダ信号を使用した回転方向指定(図5)

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偏光技術は、通常のグレースケールでは感知しにくい、光沢、透明、黒色、歪に対して非常に有効です。実際にグレースケール撮像と偏光撮像を比較しながら、その特性をご紹介します。
まず、金属光沢面に対する撮像例を示します。例えば、金属ワイヤーの方向性を抽出したい場合について、通常のグレースケール撮像では、金属光沢とワイヤー方向性による反射が重なり、巻き付け方向についての抽出が非常に困難となりますが、AOP偏光角画像では、巻き付けワイヤーの方向性をかなり忠実に可視化ができています(図5)。

今回のまとめ

今回は、偏光技術の進化と、産業用偏光カメラで撮像した事例「金属光沢面」をご紹介しました。マシンビジョンシステムでは可視化は命です。正常と異常をコントラストよく像化できれば、その後の処理は簡易なものですみます。偏光の世界は、ヒトには見えません。困難ワークでお悩みの方は一度偏光カメラで撮像してみてはいかがでしょうか。次回は、続けて、透明、黒色ワークの撮像事例をご紹介したいと思います。

 

※内容は予告なく変更になる場合があります

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